第61章 忠告
「……妬けますね」
肩の一点……キスマークの辺りをぐりぐりと押される。
『いいでしょ別に……んっ……?!」
バーボンの唇が少しだけ肌を掠めた。驚いて顔を上げると楽しそうなバーボンと目が合う。
『な、なに……』
「可愛いですね」
余裕そうな感じに腹が立って顔を背けようとしたけど、それより先にバーボンの指が私の顎をすくう。顔が近づけられて、あと少しで唇が重なりそうな距離に。
「キスしても?」
『……だめ』
「それなら逃げないと」
『貴方が離してくれないから……』
「力なんて入れてませんけど」
腕を引くとバーボンの手はすぐに離れていく。そのまま後ずさり……しかけたのだが、また視界がグワンと揺れる。腰が抜けそうになったけど、バーボンの腕が回されてそれなどうにか回避した。
「おっと……気をつけてくださいよ」
『ごめ……』
言いかけたところで背後から物凄い殺気を感じた。振り返る前に腕を掴まれて後ろへ引っ張られる。ドスンと背中がぶつかって、同時にタバコの匂いに包まれる。
動きの鈍い首を回して視線を上げれば、思い描いていた通りの人物がそこにいた。
『ジン……』
「何の真似だ」
「さあ……話さないといけませんか?」
ジンとバーボンの間の空気が凍りつきそうなほど冷たい。ジンは舌打ちをして踵を返した。
『あ……じゃあね……』
バーボンに一応声をかける。すると、
「ええ、また。ドレスよく似合ってますよ」
『……うん』
褒めてくれるのは嬉しいけど、今はちょっと……返事もほどほどにジンの後を追った。焦りのせいか、足は思うよりスムーズに動いた。
ジンの車に乗り込む。張り詰めた空気が苦しい。
『あの……』
「電話はちゃんと切ったか確認するんだな」
『えっ……』
バッグからスマホを取り出すと、まだ通話中の状態。てことは……バーボンとの会話も全部聞かれていた……?
『えっと……』
何を言っても言い訳になるだろうし、そもそも言葉が出てこない。酔っているせいで余計に。
何も言えないまま車は動き出し、どこへ寄ることもなくアジトに戻る。
ジンの後に続いて部屋に入る。電気が着くより先に腕を引かれ、壁に押し付けられ、荒々しく唇が重ねられた。そして、背中と壁の間に入り込んできた手が背筋を下へなぞり、ドレスのファスナーに手がかけられた。