第61章 忠告
「もう少しワガママになってもいいんじゃないの?」
『そうかな……でも足枷にはなりたくないし、迷惑かけるなら離れるつもりだし……』
「そういうところ。もっと貪欲になったら?そのままだと、いつ、誰に取られるかわからないわよ」
『うん……』
目の前に置かれたカクテルに口をつけ、小さくため息を漏らした。そして横に座るベルモットを見る。
どういう経緯かは知らないけど、ジンとベルモットがそういう関係であったことは事実みたいだし、そんなことを言われればベルモットもその気があるのではないかと疑ってしまう。
ベルモットのことも好きだし、関係が拗れるようなことはしたくない。
『……ベルモットはそういう人いないの?』
「あら気になる?」
『うん』
「そう……でも、そういう話はできないのよ。誰かに聞かれても困るし」
『あ、そうだよね』
大女優の色恋沙汰なんてマスコミが飛びつきそうなこと、こんなところで話せないか……うまく話題を避けられたような気もするけど。
ベルモットがカクテルグラスを置いた。その音が少し引っかかる。
「貴女……一般人と関わりすぎると後々後悔するわよ」
『……急に何?』
「忠告。子供やその周辺の人間は危険よ」
『やっぱりあの時の教師、貴女?』
「……さあ、何のことかしら」
Yesの返事ではなかったけど、たぶん間違いない。子供なんてコナン君とその友達としかまともな会話はしてないし、その時に会ったのはあのFBIとメガネの男だけ。
「気をつけるのね。子供は妙なところで頭が切れるから」
『……万が一のことがあれば消しちゃえばいいでしょ?』
微笑みながら返すとベルモットの視線がキツくなる。
「子供が行方不明になれば、それも何人も消えたら……」
『証拠も何も残さずに消すことなんて、組織の手にかかれば造作もないじゃない。それに……』
残ったカクテルを飲み干して再度ベルモットに向き直る。
『あっちの私は本来存在しない人間だもの』
「……」
あの子供達に会ったのは今の私じゃない。作られた別の姿の私。本来存在しない人間なんて探しようがない。まあ、その顔で関わったことのある人間が多いのも事実だけど。
『同じものを』
グラスを押し出しながらバーテンダーにそう言った。
最もあの子たちを手にかけるつもりなんて全くないんだけどね。