第61章 忠告
「バーボン、急に呼び出して悪かったわね」
「いえ、お気になさらず。また必要なら連絡ください」
バーボンの視線が向けられたけど、この間変な空気になったから気まづくて目を合わせないように逸らした。
「じゃあ行きましょ」
『うん』
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ついたのは超がつくほどの高級レストラン。しかも個室。そりゃ休業中の大女優がいたら周囲は驚くだろうし、そんな反応を気にしていては私達もゆっくり食事を楽しむ余裕はないだろう。
「いつぶりかしらね、こんなふうに食事をするのは」
『本当に……しばらく連絡くれないんだもの』
そう返すとベルモットは小さく笑いを漏らした。
「ごめんなさいね。こっちに来てからいろいろとバタバタしてるのよ」
『任務、とか?』
「そんな感じ」
お互いにワイングラスを持ち上げる。カチン、と合わせて一口口に含んだ。
『話したいことも、聞きたいこともたくさんあるの』
「私もよ」
話は弾んだ。話題は尽きないし、それどころか深く掘り下げていくから思わぬ方向へ話が膨らんだり……こうやって話すのは久々だからとても楽しい。
楽しい……のだけど。
話の中身はちゃんとある。そこに乗る感情も偽りのものではない。傍から見れば、普通に楽しく会話していると認識されるはずだ。それでも、今日誘われたのは何か別の理由があるような気がする。
胸にモヤモヤしたものを抱えながら、デザートの最後の一口を口に運んだ。
『ご馳走様。美味しかった』
「よかったわ。この後どうする?」
『この後?』
「一番上にバーがあるの。いい雰囲気のところだから気に入ると思うわ」
『そうだね……そうする』
既に若干ふわふわしてきているのだけど。ワインも美味しかったから……なんて。嘘ではないけど、実際は自分の表情を取り繕うためだったりもする。
時間はまだ大丈夫だし、きっとこの先が本題だろう。
「ジンとは上手くいってる?」
バーのカウンターに座ってそれぞれでカクテルをオーダーする。直後に切り出された話題は、予想こそしていたけどそれでもすぐに答えることができなかった。
「あら……」
『違うよ、上手くいってないわけじゃない。でも……』
すれ違って、それが解決して距離が縮まったかと思えばまた……そんなことは何度もあったし、これから先もきっとある。そう思うと今から気が重い。