第61章 忠告
ショールを肩にかけてバッグを手に持つ。最後にもう一度鏡の前でチェックをして部屋を出た。
いつもよりジンの歩くペースが遅い気がするのは、私の格好のせいだろうか。気のせいかもしれないけど、そんなことでさえ気分が上がる。
「ジン……とマティーニじゃないか!そんなにめかしこんでどこ行くんだい?」
「チッ……」
前から歩いてきたキャンティとコルンとカルバドス。抱きつかんばかりの勢いでキャンティが迫ってくる。ジンは不機嫌そうだけど。
『キャンティ。任務終わり?』
「そうだよ。今報告してきたところさ……で、どこ行くんだい?」
『えっと……ディナーに。その、ベルモットに誘われて』
キャンティはベルモットのことをよく思ってないしな……でも、変に誤魔化して後々響いてくるのも嫌だし。
案の定、キャンティの視線がキツくなる。
「ふん、あんな女……」
きっとまだ言葉は続いたんだろうけど、カルバドスがいるからか舌打ちをして押さえ込んだようだ。本当、キャンティって仲間思い……。
「行くぞ」
『えっ、あ……じゃあまたね!』
3人に手を振ってその場をあとにした。
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『まだ来てないかな……』
目的地のホテルにだいぶ早くついてしまった。ベルモットはまだ来てないようだし、少しの間車の中で待つことにする。
「帰りは」
『来てくれるの?』
「……必要ねえならいい」
『そういう意味じゃなくて……だって、いつもは……』
今日みたいに送ってもらったことは何度かある。でも、ジンから言い出してくれたのはたぶん初めて。そのせいか、変に申し訳ない気持ちになる。
「……どうする」
『お願いします……』
「早めに連絡よこせ」
『うん』
車内に沈黙が落ちる。ちらっと外へ視線を向けると1台の車が入ってきた。よく見慣れている車、白のRX-7。車はジンの車の正面に止められて、先にバーボンがおりてくる。そして、助手席のドアを開けてベルモットの手を取った。
『……私も行くね』
「待て」
『ん?』
ジンの方を向くと、唇が一瞬だけ重なる。車内は薄暗いし外からは見えてないだろうけど、顔がぶわっと熱くなる。
「……早めに連絡よこせ」
『うん……』
小さく息を吐いて車をおりた。ベルモットの元へ歩み寄る。
「待たせたみたいね」
『ううん。気にしないで』