第59章 XXX ※
妙な寝苦しさと喉の渇きで重い瞼を上げた。時間を確認しようにもスマホは近くにないし、ジンの腕が私の腰に巻きついているせいで時計も見れない。
ジンは私が起きたことに気づかないようで、寝息を立てている。普段はあんなに周囲を警戒して殺気を撒き散らしてるのに……だからこそ今のジンの姿は余計無防備に見える。
巻きついている腕をそっと剥がしてベッドを出る。下着と大きめのシャツを1枚羽織り、水の入ったペットボトルを取り出した。まだ眠いし、時間も夜明け前だしすぐベッドに戻るつもりだったのだけど。
スマホをバッグの中に入れっぱなしだったことを思い出し、それを持ってソファーに座った。スマホを開くと通知が1件。その差出人の名前に眠気が吹っ飛んだ。
『ラム……』
とある組織の情報が必要らしい。メールが送られてきたのは1時間ほど前。完了次第報告を、という文字を見て立ち上がり、今度はパソコンの前に座り直した。
情報が取れたのはそれから1時間後。漏れがないこととこちらのパソコンが特定されないことを確認して、そのままラムに完了の報告を。
「……何してる」
『ん……あ、起こした?ごめん。ラムからの指示で』
ぐーっと体を伸ばしながらジンの声に答える。そして、もう一度パソコンに向き直った。
メールボックスに2件のメール。差出人はベルモット。私宛のメールにはディナーのお誘い。こちらは既に了承の返信済。すぐに場所と時間を書いた返信が来た。
もう1件のメールはジンに宛てたもの。
『ジン、ベルモットからメール来てるよ』
「……そのパソコンにか?」
『うん。パソコンつけたままにしておくから読むなら読んでね』
立ち上がってすぐバスルームに向かった。モヤモヤしながら服を脱ぐ。身体を洗い流したいだけだから、髪は濡れないようにまとめあげた。
『……見なきゃよかった』
お湯を流しながらそう呟いた。
わざわざパソコンに送ってきたということは、私が見せるためだったようにも思える。その思惑にまんまと乗ってメールをこっそり見てしまった。
―貴女も覚えておきなさい。女だけの愛情の証だから。
そんなふうに言われたのはいつだっけ?メールの末尾につけるXXX……これがキスマークであることを教わったのは。何も思っていない相手に送るものじゃない。それにメールの文面も意味深な言葉ばかりだった。