第59章 XXX ※
名前……呼ばれた?
一気に顔に熱が集まっていく。嬉しいのに恥ずかしいし、それよりなんで起きてる時に言ってくれないのよ……!もしかして、寝てる時は何回か呼んでくれてたりするのか?
とにかく、急なことすぎて……なんてぐるぐる考えていると、私の肩にジンの腕が回されて引き寄せられた。
『っ……』
声はどうにか抑えたけど……寝ていればこうも大きくはならないであろう鼓動や肌の熱には気づかれたらしい。後ろで舌打ちが聞こえた。
「てめぇ……まだ起きてたのか」
『……』
「おい」
無意味かもしれないけど、寝たふりを続ける。数十秒の間、背中に圧を感じていたがそれもジンのため息とともに和らいでいく。諦めたかな、なんて少し安堵した……のはほんの一瞬で。
「亜夜……」
『っ!』
すぐ耳元。かすれ気味の声で呼ばれて、熱い吐息が耳を撫でていく。明らかに身体がビクッと反応してしまった。
「まだ狸寝入りするつもりか」
『……』
渋々ジンの方へ身体を向ける。視線を合わせないで、ただジンの胸板を見続ける。
「どこから聞いてた」
『……たぶん全部』
「……なんで寝てねえんだよ」
『あ、あんな状況で寝れるわけないでしょ……』
またジンの舌打ちが聞こえた。恐る恐る顔を上へ向けると視線がジンとぶつかる。
『……ごめん。私のしてることも良くなかった』
「今更だな」
『……』
「なんでアイツと出かける必要がある」
『それは……いろいろ助けてもらって、その借りを返してるっていうか……』
「必要ねえだろ」
『何もしなくて、後々引っ張り出されてきたら嫌だから』
バーボンはそんなことしないと思うけど、でも万が一のことがあるかもしれないし。でも、今後は接し方とかもう少し考えないと。バーボンの気持ちも嬉しいけど、私が好きなのはジンだから。
「……妙に律義なところは前から変わらねえな」
今度は鼻で笑われた。前っていつと比べてるんだろう……ていうか、急に眠い。謝ったことで気が緩んだかも。
『ジン、好きだよ……』
「……知ってる」
『名前、コードネームでもいいから、もっと呼んでくれると嬉しい……』
「……気が向いたらな」
『ん……待ってる』
そこまで言って目を閉じた。すぐに意識がゆっくりと落ちていく。
意識が途切れる直前に、また名前を呼ばれた気がした。