第58章 少年探偵団と先生と
一度乱れた心臓の動きは、なかなか元に戻らない。
スプーンからバーボンの口が離れていく。その唇の端についたクリームをバーボンの舌先が舐めとった。
「美味しいですね」
『……そうね』
上擦りそうになる声を抑えて、すぐにそのスプーンは紙ナプキンの上に置いた。
なんでこんなにドキドキしてるのかわからなくて、それでもどうにか落ち着けようとクリームやアイスを口に運ぶ。でも、味がよくわからなくて、アイスコーヒーを飲む。それすらも一気に半分以上飲んでしまった。
「もう1杯頼みますか?」
『……えっ、あ……大丈夫かな』
「そうですか」
そう言ったバーボンはアイスをそっとすくって、そのスプーンの先を私に向けた。
『な、何……?』
「口、あーんしてください」
『いっ、いい……自分で食べれるから……』
「貴女もさっきしてくれたでしょう?」
『そうだけど、でも……その……』
「早くしないとたれますよ」
アイスの表面がじんわり溶け始めている。このままだと本当にたれてしまう……。
1回だけだし……そう思って、差し出されたスプーンの先をくわえた。溶けかかっていたアイスは口の中でシュワっと溶けて、口を開くとスプーンがゆっくり離れていく。
微笑んだバーボンと目が合うと、アイスを食べたはずなのに顔が火照ってくる。それを冷まそうとまたアイスを無心で口に運んだ。
結局パフェは半分以上私が食べてしまった。おかげで少し苦しいくらいにお腹が膨れている。
『……ごちそうさま』
「こちらこそ、付き合ってくれてありがとうございます」
車に乗り込むとエンジン音が響いてゆっくりと動き出す。しばらくの間はお互いに黙ったままだった。おかげで動悸はおさまりつつあったのだが。
「あんなに初心な反応してくれると思いませんでした」
『……仕方ないでしょ。あんなのしたことなかったんだから』
「今度もう1回しましょうか」
『もうしないわよ……』
「じゃあ、次は何をしましょうか」
『何もしない』
「僕はもっと、貴女と恋人らしいことしたいんですけど」
『私はしなくていいし、そもそも貴方とは恋人じゃないし』
車が止まったのはいつもの待ち合わせ場所。何か声をかけておりようと思ったけど、バーボンの手が私の手を握った。
「……ジンがいなかったら、僕を選んでくれましたか?」