第58章 少年探偵団と先生と
『急に何……』
「どうですか?」
『……そんなのわからない』
ジンがいない世界なんて考えないし考えたくもない。
「本当にジンのことが好きなんですか?」
『好きだよ』
「ジンは貴女をどう思ってるんでしょうね」
『何が言いたいのよ』
「ただ、性処理に使われてるだけでは?」
『っ……あ、貴方に関係ないでしょ……!』
そうは言ったけど、考えたことがないわけじゃない。でも、それでもいいって思う……思いたいのに。
「……好きですよ、亜夜」
『……』
「この言葉を、あの男は何回貴女にくれましたか?」
また心臓がうるさくて、どうしようもない気持ちになって唇を噛んだ。
恋人でないことは受け入れているつもりだ。それでも私がジンの名前を呼んで好きだと伝えることを拒否されたことはないし、ジンも似たような気持ちを持っていてくれるんじゃないかって……言わないだけなんじゃないかって。
でも、実際、私に対しての気持ちはおろか、名前も……コードネームすらろくに呼ばれたことがない気がする。
「貴女は、あの男を好きだと思い込むことで自分の意志を放棄しているように見えますよ」
『……そんなことない。私の意志よ』
名前を呼ばれなくても気持ちを伝えられなくても、私はジンのそばにいたい。
『バーボンじゃ駄目なの』
「……」
『ジンがなきゃ……マティーニはできないんだから』
力が抜けたバーボンの手から、自分の手を抜いて言葉もそこそこに車をおりた。
自室に戻るとベッドに寝転がるジンの姿が見えた。
『……ただいま』
チラリと視線は向けられたけど、すぐに逸らされる。この顔じゃ嫌か。
さっさとメイクを落としシャワーを浴びて、ベッドへ向かう。まだ夜にはなってないけど、この後はお互いに予定はなかったはず。
『ねえ、ジン』
「……なんだ」
『セックスしよ』
「あ?」
ギロっと睨まれる。私から誘うことなんて滅多にないせいだろう。
「どういう風の吹き回しだ」
『いいじゃない』
ジンの上に跨って、顔を寄せる。先程のバーボンの言葉を否定したいから、なんて言えないし。
『好きな人に抱かれたいと思うのは変なことじゃないでしょ?』
「……」
キスしかけたところでぐるっと視界が回り、気づけばジンが私の上に跨っている。
「……途中で飛ぶなよ」