第58章 少年探偵団と先生と
食い気味の言葉に口を噤んだ。バーボンはそれだけ言うと、ニコッと微笑んでメニューを眺める。私も小さくため息をついてから、再度メニューに視線を落とした。
カップル限定メニューというのは、どうやらデザート欄にある大きめのパフェのことらしい。食事は様々な彩りのワンプレート。その中から別のものをそれぞれ選び、注文する。そのパフェとドリンクは食後に頼んだ。
『……』
バーボンの顔を何となく眺める。その視線に気づいたバーボンは首を傾げたがその様子も……まあ、何と言うか、本当にモテるんだろうな、なんて思って。実際、先程注文を取りに来た店員はバーボンの方ばかり見ていたし。
「どうしましたか」
『……別に』
「残念。見とれてくれてるのかと」
『そんなわけないでしょ』
本当に……普通の女の子だったら喜ぶであろう言葉がポンポン出てくる。任務の時にターゲットに近づくために必要なスキルではあるけど。
私に向ける言葉はどこまで本心なんだろう……いや、何も期待してないし、本心である必要なんてこれっぽっちもないんだけど。
食事を終えて、先に運ばれてきたドリンクに口をつける。アイスコーヒーを頼んでみたけど……ポアロのアイスコーヒーの方が好みだ。近いうちに行きたいな……。
「お待たせしましたー」
運ばれて来たパフェを見て少しだけ目を見開いた。ずいぶん大きい。テーブルの真ん中に置かれたそれは標準の1.5倍らしいけど、それ以上ある気がする。食べ切れるだろうか……そして、なぜか置かれたパフェ用のスプーンは全部で4本。
『……?』
疑問に思いつつも、先端のクリームをすくって口に運ぶ。ん、控えめな甘さで美味しい。
『……食べないの?』
「食べたいです」
『食べればいいじゃない』
「そうじゃなくて……」
バーボンは意味ありげな笑みを浮かべた。
「食べさせて下さい」
『……はぁ?』
「スプーン2本あるでしょう?同じものを使えとは言いませんから」
『そういう問題じゃないんだけど……』
「いいじゃないですか、少しだけ。カップルっぽいことさせてください」
『……』
渋々使っていない方のスプーンを持ってクリームをすくう。それをバーボンの方に差し出した。
『……ほら』
「いただきます」
バーボンがスプーンの先をくわえた感覚が伝わってきて……なんだ、この動悸は。