第57章 天国へのカウントダウン
脚の震えを誤魔化すように車に寄りかかった。ジンの手が伸びてきてくわえているタバコを抜き取っていく。
「人のもの勝手に吸ってんじゃねえよ」
『私のタバコは何本も吸ってるくせに』
「……1箱買って返せ」
『割に合わなすぎ……』
私から奪ったタバコを踏みつけてジンは車に乗った。私も後部座席に乗り込む。ジンはエンジンをかけながら新しいタバコを取り出し火をつけた。そして、ウォッカと落ち合う場所へ向けて車は動き出した。
車が止まるとすぐにウォッカが駆け寄ってくる。窓を開けてウォッカに声をかけた。
『……おかえり。警察はなんだったかわかった?』
「パーティー会場で殺人事件があったらしいですぜ。なんでも、主催者が殺られたとか」
主催者……常磐財閥のお嬢様だったか?そっちの業界は荒れそうだな……。
「……ウォッカ、屋上だ」
「了解」
ジンの指示に、ウォッカが手に持っていたリモコンのボタンを押す。数秒後、屋上から火の手が上がった。
「これで当分ヘリは無理ですぜ……火が消えるのをちんたら待ってたらその前に……」
「タイムアップだ!」
『……』
パーティー会場に仕掛けたられた爆弾も、あと4分程で爆発する。志保ならその存在に気づくかもしれないが、火の手は70階まで迫っている。
もう、逃げ場はない。
スマホの中の時計を眺める。時の流れは決して止まることなく、数字は増え続ける。
あと、30秒。
口の中がカラカラに乾いている。指先だけでなく、全身が冷たくなっている気がする。真っ黒な煙や燃え上がっていく炎を見ていられなくて俯いた。
『ごめんなさい……』
声を殺し、口の動きだけの謝罪は最後の爆発とともに消えた。
ジンは車の外に出てビルを見上げる。ウォッカはどこかとの通話を終えたようだ。
「兄貴、車で脱出したのは、ガキ5人とジジイ1人……どうやらあの女はパーティーに来なかったようですぜ……」
来なかった……?私も外に出ていたらきっと安堵で膝から崩れていたんじゃないかと思う。
よかった……志保はまだどこかで生きてる。
「まあいいさ……当初の目的は達せたからな……」
あのビルにあったメインコンピューターは爆破したし、組織の情報は外に漏れることはないだろう。
「あのビルをヤツの処刑台にするつもりだったんだが……楽しみは先に取っておくさ……」
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