第57章 天国へのカウントダウン
『……パーティー始まったのね』
その呟きに答える人はいない。私はジンの車の運転席からぼーっとツインタワービルの最上階を見上げた。
ジンはツインタワービルの向かいの別のビルに、ウォッカは別棟にそれぞれ待機中。事が動くのは電気室と発電機室、コンピューター室が爆発した時。もう既に全ての爆弾は動き出しているだろうけど。
座席に置きっぱなしになっているジンのタバコ。後で何か言われるのは目に見えてるけど、今はそれどころじゃない。箱の中から1本取り出して火をつけた。
『苦い……』
本当は来たくなかった。でも、志保が私の知らないところで死ぬんじゃないかと思ったら……そんな理由で着いてきてしまった。私がすることなんて何もないから、2人が戻ってくるのを待つだけ。
『ん……?』
パトカー数台がツインタワービルに向かって走っていく。時間を確認したが、爆発するまでまだ少し時間はある。
……一応知らせておかないと。
ビルに待機しているウォッカに電話をかける。
『……もしもし』
「どうしやしたか?」
「パトカーがそっちに行った。何かあったみたいね」
「わかりやした」
それだけで切れた電話。ジンの方は問題ないだろう。2人なら、たとえ警察と鉢合わせたとしても何事もなかったかのように戻ってきそうだけど。
ドォン……
車内にいても聞こえた爆発音。立て続けに何回も。ビルの数箇所から黒い煙と真っ赤な炎が見える。
何もできないのはわかっていたけど、焦る気持ちだけどんどん強くなって車の外に出た。風に乗ってきた煙の臭いは時間が経つほどに強くなる。
先程のパトカーと同じように、今度は消防車がサイレンをけたたましく鳴らしながら走っていく。
結局、私は今日まで何もしなかった。志保が死ぬのは嫌だけど、同時に自分の身の安全も考えた。どこにいるかわからない、なんて理由をつけて彼女を助けようとしなかった。
『ごめんなさい……』
ただ、口からこぼれた言葉。そしてらまた大きな爆発音がした。
「何をしてる」
聞こえた声と足音に振り向くと、ライフルとバッグを持ったジンが立っていた。
『……別に。それで、どうなったの?』
ジンはトランクを開けて中に持っているそれらを放り込む。
「上の階に残ったようだが……どこにいたって死ぬことに変わりはねえ」