第57章 天国へのカウントダウン
自室に戻り、テレビをつける。どこのチャンネルでもさっきのビルのことが速報で流れている。原因不明の爆発……のことが明るみに出ることは決してないのだろう……。
「ずいぶん緩んだツラしてるな」
『……そう?そんなことないと思うけど』
この数日間張り詰めていたものが急になくなったのだ。緩むのは仕方ないと……なんて言ってはいけないか。裏切り者を始末できなかったのだから。
「あの女が来なかったのがそんなに嬉しいか」
『そういうわけじゃ……でも、せっかくなら死に顔拝みたいでしょ』
全く心にないことがつらつらと口を出てきた。部屋に漂う雰囲気が気まずくて、それから逃れようとバスルームに向かった。
『はぁ……』
シャワーを頭から浴びて、頭の中を整理していく。
今回は彼女が現れなかったからいいものの、この先も続くとは思えない。たまたま運がよかっただけだ。
早めに居場所をつきとめないと。組織の手が届く前に。彼女を匿っているであろう男のことも……そこそこの切れ者であることは確かだろう。
組織の目を、ジンの目を盗んで行動することに恐怖はある。誰かに協力を頼むことはできないし……そもそもただの自己満足にしかならないのかもしれないけど。
私がバスルームを出ると、入れ替わりでジンが入っていく。スマホの通知を確認すると、バーボンからメールが入っていた。
《近いうちに先日の埋め合わせを。時間のある時を教えてください》
気にしなくていいのに……直近で空いているのは1週間後の日曜日。そう返信すると、どうも都合が合ったらしくその日になった。待ち合わせ場所はこの前と同じ米花百貨店。時間だけ前より2時間後になる。
『さすがに2回目はないよね……』
またこの前みたいにFBIにばったり出くわしてしまったら……常に警戒をしていれば大丈夫だろうか。
『そういえば……』
ベルモットが今どこで何をしているのか……姿を見ないし、音沙汰もない。食事に誘ったメールの返信もないままだ。これといって用事があるわけではないけど、話したいことも聞きたいこともたくさんあるのに……急かすのは嫌だから返信があるまで待つけど。
つけっぱなしだったテレビを消し、寝る準備を済ませてベッドに横になる。
そういえば、と原の最後の姿を思い出した。あの時、ナイフを手に持っていたが……本気で抵抗できると思ったんだろうか。
![](/image/skin/separater7.gif)