第57章 天国へのカウントダウン
『……眠い』
あと数時間で日付が変わるという頃。私はジンの車の助手席で何回目かのあくびをした。
「寝るな。もう着く」
『ん……』
そして、車が止まったのはマンションの前。私が一度だけ来た、明美が借りていた部屋があるマンション。
目を擦りながらジンの方を見る。すると、ジンはタバコを取り出して火を付けた。
「……先行ってろ」
『……わかった』
ドアに手をかけて開けようとしたところで動きを止める。
『待って、部屋番号知らないんだけど』
「……ああ、言ってなかったか」
ジンは煙を吐き出して、部屋番号を言った。それを一度繰り返してから車をおりる。階段の下まで歩いていって大きく息を吐いた。
危なかった……そのまま出ていったら、と思うと指先が震えた。おかげで目は完全に覚めてくれたけど。
階段をのぼって言われた部屋の前に。手袋をしてドアノブを捻った。部屋の中からはバラバラと物が落ちる音が聞こえる。
『……お疲れ様、ウォッカ』
「マティーニ……原の方は?」
『始末したわ。パソコンのデータも消した』
部屋の中は前に来た時と同じ。少しだけほこりっぽい気はするけど。
またドアの開く音がして、ジンが姿を現した。
「兄貴……」
「この部屋か……」
管理人にも写真を見せて確認したらしい。家賃は1年分前払いされていたようだ。
「電話も留守電のまま……隣の住人の話じゃ、時々電話がかかってきて、メッセージを入れてるそうなんですが……」
メッセージ?それを聞いて嫌な予感が頭をよぎる。
「留守電を確かめたところ、妙なことに……」
「メッセージは録音されていなかった……」
心臓の音がうるさい。明美に連絡を入れて、なおかつその録音を消す……そんなことをする人間なんて一人しか思いつかない。
「所詮女は女か……」
ジンが不気味に笑った。
「車の中にパソコンがある。取って来い……組織が開発した逆探知プログラムだ!これがあれば20秒で逆探知できる」
「了解」
ウォッカが急ぎ足で部屋を出ていく。ジンはソファーに座った。私はそんな気になれなくて、床に散らばった本を拾い上げる。それを本棚に戻しながら、何度も深呼吸を繰り返した。
『……ジン、タバコはまずいんじゃない?』
そう言ったが、タバコを取り出したジンは躊躇うことなくそれに火をつけた。