第57章 天国へのカウントダウン
「……俺を裏切るなよ」
私が小さく頷いたのを確認して、ジンは体を離す。そして、帽子とコートを置いてバスルームへ入っていった。
『はぁ……』
いくつ目の嘘なんだろう……これだけ嘘を積み重ねているくせに、ジンの傍にいたいと思う。私が気を抜かない限り簡単にバレることはないはず。
でも、もしバレたら。間違いなく消されるはずだけど、ジンはその引導を渡してくれるだろうか……ジン以外に殺されるのは嫌だ。
水をグッと飲み干してすぐにベッドに入る。早く寝てしまおうと目を閉じたけど、こういう時は妙に目が冴えて寝付けない。
しばらくバスルームのドアの開く音がした。微かな物音が続いた後、ベッドの空いたスペースが軋んだ。ジンの冷たい指先が私の頬を滑っていく。布団が少し捲られて、ジンの体が入り込んできた。
背後に感じるジンの体温。それだけで、私の瞼はどんどん重くなっていった。
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「……行くぞ」
『ん……あ、ちょっと待って』
ピッキングの道具とUSBを持ってジンの後を追った。
車内にはジンとウォッカと私。ウォッカは途中から一旦別行動。ジンと私で原を始末して、パソコンのデータを消す。ウォッカは……先に明美が借りていた部屋へ向かうらしい。
夕方5時を過ぎた頃。ジンの車は人気の少ない裏路地に止める。
原の家の鍵は大して難しいものじゃなくて、ピッキングの道具を差し込んですぐに開けることができた。
「だっ……誰だっ……!」
鍵が開いた音が聞こえたのか、中から男の声が聞こえた。ジンは無言で家の奥へ入っていく。私もそのあとに続いた。部屋に入るとチョコレートの甘い香りがする。
「お前らは……っ!」
『なんで私たちが来たかくらいわかってるでしょ』
部屋の中をぐるりと見回してからパソコンの前に立つ。テーブルの上にあるのはチョコレートケーキだろうか……美味しそう。
カチャッという音に視線を向けると、ジンが拳銃を構えたところだった。
「くそっ……!」
原がテーブルの上にあった銀のナイフを手に取った。でも、そんなもので拳銃に対抗できるわけない。一瞬にして、原は始末された。胸元に血がじわじわと広がっていく。
「……まだか」
『あとちょっと』
パソコンのデータをUSBにコピー。その後、全てのデータを消去する。真っ暗になった画面を確認して私たちは原の家を出た。