第57章 天国へのカウントダウン
震える指で扉のロックを解除し、自室に戻る。我に返った時には湯船に浸かっていた。
あの家、見つかったんだな……。
明美が死んだ直後に一度行っている。痕跡は何も残してないはずだが、変なところでボロを出さないようにしないと。
私がバスルームを出てから1時間程でジンが帰ってきた。
『……おかえり。何してきたの?』
「……下調べ、だな」
『下調べ……?何の?』
ジンはソファーに座り込んで、タバコに火をつける。
「組織のコンピューターに入り込んだ野郎がいる」
『えっ……』
そんな命知らずなヤツが?でも、ジンは怒っている様子じゃない。むしろ、獲物を目の前にした獣のような感じ。
『その様子だと誰か分かってるんでしょ?』
「原、ってプログラマーだ。場所は西多摩市のツインタワービル」
ツインタワービル……確かTOKIWAってコンピューター関係の会社が入ってるんだっけ?原はそこの専務だったはず。
『下調べってそのビルに行ったの?』
「……そこのメインコンピューターにデータが転送された可能性もあるからな」
『じゃあ、原を始末してそこのコンピューターを壊す?』
「ああ……明日原は始末する」
『……私必要?』
「鍵を開けろ。俺がヤツを始末する間に、ヤツのパソコンのデータを全部消せ」
『わかった』
そこまでは平然と答える。が、心臓の音がうるさい。いつ、何を切りこんでくるかわからないから。私から話を振るべきか?でも、振り方を間違えたら取り返しがつかない。
悩んだ末、私から話はしないことに決めた。私は何も知らない、と自分に何度も言い聞かせながら、ジンに背を向けて冷蔵庫から水を取り出す。
「……本当に知らなかったんだな?」
背中にジンの声が突き刺さる。バレないようにそっと息を吐いて顔を半分だけ振り向かせる。ジンはタバコを灰皿に押し付けるのが見えた。
『……何を?』
「あの女の部屋を」
ジンが立ち上がる気配がして慌てて振り向く。もうすぐそこにジンがいて、一歩引くより先に顎を掴まれる。
「どうなんだ」
『……知ってたら言ってる』
目を一度閉じて、ゆっくり開きジンの目を見る。
「……ならいい」
引き寄せられて荒々しく唇が重ねられる。舌が入り込んできて、いつも通りの苦い味を感じた。
唇は割とすぐに離れて、今度は耳にジンの口が寄せられる。