第54章 全部私が※
「この状況で我慢しろってことか?」
『う……』
「てめぇも昨日言ったろ。我慢できねえって」
『そんなこと言ってな……!あ、いや……言ったけど……』
それとこれとは話が違うんじゃない……?だって少し当たっただけで痛むほどの傷なら、動かせば絶対痛いし、体を支えるのだってキツいと思うし……。
でも、どうにか頭を切りかえて、そういうスイッチを入れた自分がいるのも事実。
『じゃあ……私が全部やるから』
「……あ?」
『自分の用意も、ジンの用意も私がする……ジンは何もしないで。それでいいなら続きする……』
「馬鹿言ってんじゃねえよ」
『いいじゃん、いつもジンが上なんだから』
単純にジンの怪我が悪化するのが嫌なのもあるけど、いつもいいようにされているし、たまにはいいよね。もちろん、調子に乗りすぎるととんでもない仕返しが待ってるから適度に。
『満足させられるほどはできないけど、このままやめるよりマシでしょ?』
「……そこまで言うならやってみろ」
『ん……わかった』
身体を起こしてジンは座り込んだ。私は膝立ち。不服そうに目を逸らしたジンの顔に手を添えてそっと覗き込む。
『キス、していい?』
「……好きにしろ」
ジンの唇に自分の唇をそっと重ねる。軽く触れるだけのキスを何度も何度も。最後に薄く開きかけている唇を舌先で舐めた。今は敢えて舌を絡める深いキスはしない。
ジンの長い髪を避けながら、耳に口を寄せる。耳の縁に指を這わせて、それを追うように舌先でなぞる。甘噛みしたり、奥の方まで舌を入れてみたり……ジンの呼吸が乱れている感じは全くないけど。
『……気持ちよくない?』
いままで舐めていた逆側の耳元で囁いた。反応は返ってこないから、諦めてそのままゆっくりと舐める。
『この匂い好き……』
ジンの耳の裏に鼻を寄せて、その匂いを吸い込む。
「……やめろ」
『もうちょっと……』
タバコの匂いが強いけど、その中に感じるジンの匂い。フェロモン……とはまた違うと思うけど。相手の体臭をいい匂いだと感じるのって、遺伝子が遠いから……って、何かで読んだ気がする。
落ち着く匂い。何かに例えるのは難しいけど、本当に好きな匂い。
私からもそういう匂いってするんだろうか……自分の匂いに気づくことなんてできないけど、ジンにとっていい匂いであって欲しいな……なんて。