第54章 全部私が※
「ならいいだろ」
『えっ……まってまって……!』
「……」
『あ、その……ジンは?体調大丈夫なの?』
「悪そうに見えるか?」
『だって一緒に寝たし……み、水も飲ませてくれたし……』
昨日口移しで水を飲ませてもらったを思い出して、目を逸らした。しかし、その隙を待ってましたと言わんばかりに、背中にジンの手が回ってプチンっとホックを外した。
『はっ、ちょっと!』
そのままずり上げられそうになるブラを片手で抑えて、もう片方の手でジンの胸板を押す。
「……往生際が悪い。諦めろ」
『……もう一個、聞いてもいい?』
「……なんだ」
『えっと……ここまでするってことはあの時から気が変わったからだと思うんだけど、その……』
それを口にしようとすると、胸の奥がキュッと痛む。でも、聞かないままで抱かれるのも嫌だ。
『……あれから、何人抱いた?』
「さあな……覚えておく必要ねえだろ」
その言葉に涙がじわっと滲む。それがこぼれ落ちないように目をぎゅっと瞑った。
同時に両手から力が抜けて、あっという間にブラは取り払われる。震えそうになる唇にキスが落とされた。しばらくぶりに触れられるのは嬉しいはずなのに、どうにもそれを受け入れきれない。
こうなる原因をつくったのは私だし、文句を言う気はない。それでも、いつもは私に触れる手や唇を他の女にも感じさせたのかと思うと苦しくて堪らない。
「……変な顔すんな。萎える」
『ごめん……』
パサっとジンの服が床に落とされた音がした。
抱こうとしてくれてるんだから、今は余計なことは考えないようにしよう……そう思ってジンの方に視線を向けた。
『なにそれ……』
ジンの右の上腕。肩の付け根から肘の上までぐるぐると巻かれた包帯。私の手が当たった時に顔を歪めたのって……血の気が引いてあわてて起き上がる。
『どうしたのこれ?いつから?』
「……大したことねえ」
『嘘ばっかり。さっき痛そうにしたじゃん。包帯もそんなに……』
「……ウォッカが大袈裟に巻いただけだ」
『そうなのかもしれないけど……何の怪我?取引とか?』
「……自分で撃った」
『はあ……?』
「緊急だったんだ。仕方ねえだろ」
意味が理解できなくて、必死に思考を動かしているとジンの手が触れてくるから、それを掴んで止める。
『待って、駄目、悪化するよ』