第53章 たぶん、そんな感じ
「……おい」
コツンと頭に何か当たって目を開ける。不機嫌そうに私を見下ろすジンの手には水の入ったペットボトル。
『……ありがと』
寝転んだまま手を伸ばそうとした。でも、ペットボトルを掴むことはなかった。
「起きろ」
『……ん』
たしかにこの体勢で飲んだら変なところに入るかも。そう思い、手をつきながらゆっくり起き上がり、今度こそペットボトルを受け取る。
『冷た……』
冷蔵庫に入っていたから当たり前なのだけど。布団を被って温まりかけていたところに冷たい水……また体が冷えそうだけど、わざわざ温めてもらうのも悪いし……。
「チッ……」
『……あ、ちょっと』
「……口開けてろ」
ペットボトルを奪い取られ、ぼーっとそれを見ているとジンが口に水を含んだ。そのまま顔が寄せられる。
『え……だめ、風邪うつる……』
口移しで飲ませられることを察して、唇が重なる前に顔を逸らす。でも、ジンの手がそれを許さなくて、顎を掴まれて無理矢理唇を重ねられた。割り込んできた舌と流し込まれるぬるくなった水。受け入れきれなかった水が口の端から垂れる。
『ねえ、ほんとに……自分で飲むから』
「……1回やったら同じだろ」
結局拒みきれなくて何度か水を飲ませてもらった。しかし、また別の問題が。
喉は潤ったが、今度は身体が……奥の方が欲しがり始める。ジンが部屋を出ていった日から、キスもセックスもしてない。誰ともしないで我慢していればいつかまた抱いてくれる……そう思って耐えていたのに、キスだけでどうにかなりそう。
『もういいよ……ここにいたら本当に風邪うつるよ』
「そんなにヤワじゃねえ」
『お願い……このままじゃ我慢できなくなる……』
「どういう意味だ」
『言わせないでよ……』
「……」
再び唇が重なろうと……その時、ドアをノックする音が聞こえてジンが離れる。ドアが開いてウォッカが入ってきた。
ちょっと硬い表情のウォッカ。部屋の中の空気を感じたのだろうか……だとしたら申し訳ない。
「食べれそうなら……薬も一応買ってきやした」
『うん、ありがとう』
「それじゃ俺はこれで……失礼しやす」
ウォッカはすぐに出ていった。渡された袋の中からゼリー飲料を取り出して口をつける。
『ジン……本当にここにいるの?』
「悪ぃか……まあ、今日は我慢してやるよ」