第53章 たぶん、そんな感じ
やばいな……。
どうにかアジトに帰り着いたものの、出る前と比べて明らかに体調が悪化している。ふらふらと車をおりて建物内へ繋がる入口へ向かう。大きく息を吐いて鍵を解除しようとした時、内側から扉が開かれた。
「……あら、マティーニ」
『ん……あ、久しぶりだねキュラソー……』
「そうね。ずいぶん体調が悪そうだけど。部屋まで1人でいけるかしら?』
『うん……大丈夫。これから任務?気をつけてね……』
「ええ。貴女も無理しないで」
キュラソーとはそこで別れて自室へ向かう。普段から通っている道なのに、いつもより時間がかかった。薬、もう1回飲まないと……シャワーは今日は我慢しよう。
ドアを開けてふわっと体を包んだ匂いに、ん?と首を傾げる。壁に手をつきながら部屋の奥へと進むとジンとウォッカがいた。
『あれ、いたんだ……』
「……用件を聞く前に出ていった馬鹿のせいでな」
『ふーん……?』
頭の回転が更に悪くなってる気がする。言われてることがイマイチ理解できない。何かトゲトゲした雰囲気が肌に刺さるけど、今はとりあえず座りたい。
ソファーに向かおうとしたけど何もないところで足がもつれて、体が倒れる。あ、このままじゃテーブルにぶつかる……。
「マティーニっ……?!」
ガツンっという衝撃を予想しかけたのに、体を受け止めたのはウォッカだった。
「マティーニ、熱が……」
『うん……知ってる……』
「薬はありやすか?いや、その前に何か口に入れないと……」
「おい、いつまでそうしてる」
ジンの冷たい声にウォッカがビクッと反応したのがわかった。でも、そんなこと言われたって体が動こうとしないんだから。
「あ、兄貴、すいやせん……その……マティーニも失礼しやす」
ウォッカに体をそっと抱き抱えられて、すぐにベッドの上におろされた。ご丁寧にも布団までかけてくれる。
「……何か買ってきやす」
『うん……ありがと。は、くしゅんっ……』
ドアの開閉の音がしてウォッカが出て行ったことを察する。
顔は熱いのに、体は寒い。布団を顔近くまで引き上げる。
「チッ……」
静かな部屋にジンの舌打ちが響いた。
『……ジン、ごめん……水欲しい』
「……」
返事はないけど、ジンが立ち上がる気配がして目を閉じる。どれくらいで回復するだろう……早く治さないとみんなに迷惑かかるし。