第51章 ひとつの可能性
「……亜夜さんだって女の人だから危ないよ」
ムスッとしながらそう返されて、言葉に詰まる。
そもそも夜道を歩くことを心配されたことなんてないし、たとえ通り魔なんかと鉢合わせても返り討ちにできる自信がある。そう言ったところで信じてもらえるかは疑問だけど。
「博士に迎えに来てもらうよ。亜夜さんのことも送ってくれるんじゃないかな」
『え、っと……』
これはまた面倒な提案だな……コナン君は善意でそう言ってくれてるんだろうけど、どこでおろしてもらうべきなんだろう……何より組織の人間に、博士という人の姿や車を見られたらたぶんまずい。いや、絶対。最悪の場合も有り得る。
『だ、大丈夫。そんなに遠くないし……あ、買いたいものもあるから……』
「そうなんだ……でも、気をつけてね」
いつの間にかケーキを食べ終えていたらしい。するとタイミングよく、私の前にカラスミパスタ、コナン君の前にオムライスが出された。
『いただきます』
フォークに巻き付けて口に運ぶ。うん、美味しい。
『とても美味しいです』
「よかったです。結構人気なんですよ」
『そうなんですね。あ、ケーキも美味しかったですよ』
「ホントですか!じゃあマスターに相談してみよ……」
そう言って洗い物を始めた梓さん。ふと疑問に思う。
『メニューって梓さんが考えてるんですか?』
「そうですねー、季節限定とかいろいろ考えますよ」
『へえ、すごい』
「考えるのは楽しいんです。でも、もう1人そういう人がいたらいいなって……」
そりゃそうだ。1人で考えて試作して……なんて、ものすごく大変だろう。感じのいいお店だし、募集をかければ案外すぐに入ってきそうだけどな。
『ふぅ……ご馳走様です』
「僕もお腹いっぱい……」
そろそろ帰らないと……またしても予定以上に長居してしまった。お会計をしようと立ち上がった。
「わっ……」
『あっ、ごめん!大丈夫?』
立つ時に若干ふらついてコナン君に強く当たってしまった。そのせいで彼のメガネが落ちて、慌てて拾い上げた。よかった、割れてない……あれ?
「……亜夜さん?」
『ごめんね、これないと見えにくいよね』
「えっ、あ、うん。僕、結構目悪くて……」
コナン君はメガネをかけなおし、えへへと笑いながら頭をかく。
結構目が悪い……ね。