第51章 ひとつの可能性
そしてもう1人……シェリーもそうなっているのかもしれない。それならば、あの部屋から煙のように消えた理由も推測できる。
大人の姿では手錠から手を抜くことも、部屋から抜け出すこともできなかっただろう。でも、子供の姿なら?傷を創ることなく手錠から抜けて、あの部屋にあったダッシュボードから……。
今までと姿が違うなら簡単に見つからないのは当たり前だ。しかし、子供の姿で1人で生きていくことなんてできるわけがない。シェリーに関しては子供の時の顔を、組織の人間に知られている。ならば……
『……協力している誰かがいる』
シェリーのことを匿っている誰かが。もしかしたらその誰かは、工藤新一のことも……。
『もう1回聞いてみるか』
蘭ちゃんに会えればの話だが。まあ、彼女の帰宅のタイミングを狙ってポアロに向かえば高確率で会えるだろうけど。
思い立ったが吉日……とは言うが、今日は難しいか。いや、まだ夕方だし行けるか……ポアロのアイスコーヒーが飲みたい。
『……よし』
少々面倒だが顔を変えて行かないと。仮に素顔で行って蘭ちゃん達に会っても何も聞けないし。
一度顔を洗って、服を着替える。手早くメイクをしてウィッグを被って鏡で確認。
小さめのバッグに必要な物を詰めて……というところでノックの音。
『開いてるよ……誰?』
「俺です……あれ、今からお出かけですか?」
『ちょっとね。どうしたのウォッカ……ジンもいたんだ』
ウォッカだけかと思ったのに、ジンの姿もあってちょっと驚いた。
「チッ……」
私の姿を見てジンが舌打ちをした。本当にこの顔好きじゃないんだな……。
「あの……」
良くない雰囲気が漂ったのをかんじたのか、ウォッカが恐る恐る声を出す。
『あ、ごめん、何?』
「えっと……酒巻って知ってやすか?映画監督の……」
『知ってるよ……あれ、でも最近亡くなったよね?』
「ええ。それである会が開かれるんです」
『へえ……行けばいいの?』
「てめぇは待機だ。ただ、すぐに動けるようにしとけ」
ジンがタバコに火をつけながらそう言った。日付と場所を確認してバッグを持ち直す。
『……わかった。それだけ?』
「……ああ」
『そう。じゃあ行くね』
「送りやしょうか?」
『大丈夫。そんなに遠くないから。じゃあね』