第51章 ひとつの可能性
水を口に流し込み、またパソコンの前に座る。するとまた電話。
『もしもし』
「Hi、元気にしてる?」
『もちろん。貴女も元気そうね、ベルモット』
正直驚いた。今、彼女は本業の女優の仕事……ドラマの撮影中だったはず。
『何かあった?』
「近いうちにそっちに帰るから、それだけ伝えておこうと思って」
『ほんと!嬉しい!あ、でもすぐに帰る?』
「いいえ、さっきドラマの撮影がクランクアップしたところ。これでしばらくの間、女優業は休業」
『じゃあしばらくこっちにいるんだ。よかった』
こっちにいてくれるなら今まで会えなかったぶん、いろいろできる。食事にも行きたいし、買い物だって一緒にしたい。
『あ、ベルモットが帰ってくることって他に誰か知ってるの?』
「あら、聞いてないの?」
『何を?』
「……理由はともかく、ジンは知ってるわ」
『そうなんだ……』
「何かと面倒ごとも多くなったみたいね……会ったら聞かせて」
『うん。わかった。待ってるね』
電話が切れて、思わずため息をつく。
ベルモットが帰ってくるのは本当に嬉しい。でも、ジンがそれを教えてくれなかったことがちょっと不満。どうせそんなこと言えば、わざわざ連絡する必要ねえだろ、って返ってきそうだけど。
水を一口、口に含んで今度こそパソコンを開く。そして入力するパスワードは……
『Shelling ford……』
開かれたページのタイトルは例の薬の名前。薬学に関する専門的な知識は持ち合わせていないから、文字の列をただ上へ流していく。
『……まだ未完成なのよね』
毒が検出されない、完全犯罪が可能な代物。実際に使われて死んだ人もたくさんいる。それなのに、どうして工藤新一は生きているのか。
シェリーがいたら聞きに行けたのに……と、彼女と話したことをなんとなく思い出していた。
『あれ……』
ひとつ、にわかには信じ難い可能性が頭をよぎった。
『え、まさか……いや、そんなことあるわけ……』
肯定と否定の考えがごちゃ混ぜになっていく。あの時見せてもらった映像を探すけど、保存していないのかどこにも見つからない。
証拠はない。でも、あの時のことは夢じゃない。
工藤新一は生きている可能性がある。あの時見た1匹のマウスと同じ様に……幼児化した姿で。