第5章 それぞれの思い※
ジンside―
ベルモットが出ていった部屋に舌打ちの音が響いた。
「あの女……何考えてやがる」
あの反応を見るからに、この封筒に入れられた情報は嘘、もしくはもう既に済んでいる案件だろう。そんなものを用意してまで亜夜を抱かせようとする理由は何なのか。
あの日から、亜夜のことは意識しなくても浮かんでしまう。任務が同じになることもあるから、避けるわけにもいかない。
会う度に向けられる笑顔に、深い意味はないはずなのに……奥から湧き上がる欲を何度無理に抑え込んだだろう……何度あいつを頭の中で犯しただろう。
―私と……誰を重ねてるの?
あんな事言われなければ自覚する必要のなかった思い。今まで誰に対してもわかなかった感情。しかし、こんな世界にいてはそれを表に出すこともできない。
亜夜が俺の弱点になれば、あいつは常に命を狙われるだろう。それだけは避けなければならない。
―ジン!今日も一緒だね!
ふと過ぎった数日前の記憶。屈託のない笑顔を向けて笑う亜夜を……。
「ハッ……重症だな」
それだけで主張を始めた自身に呆れる。ソレを取り出し、目を瞑って上下に擦る。頭の中で亜夜が乱れる姿を思い浮かべながら。
どんな声で喘ぐ。どんな表情を見せる。触れる肌の感触は。与えられる快感に耐える姿は。
「くっ……」
絶頂を迎え、吐き出した欲が手に落ちる。それをティッシュで拭い、バスルームへ向かった。
頭からシャワーを浴びながら考える。亜夜を抱いていいものか。少なくとも怖い思いはさせたくない……経験がないのであれば尚更。しかし、自覚した思いに歯止めはきかなそうだ。
……不本意だが、ベルモットの策に乗ることにしよう。
シャワーを止めてバスルームを後にする。髪を乾かし、敢えて自分の服を着る。そして、亜夜に電話をかける。今日は任務ではなかったはずだ。
数回のコール音の後、電話が取られる。
『もしもし』
「俺だ。時間あるか?」
『大丈夫だよ。なんかあった?』
「今から言う場所に来い。話がある。住所は……」
『……案外近くだ。これから行くね」
そう言って電話が切れた。
タバコに火をつける。煙を吐きながらあいつが来るのを待った。