第5章 それぞれの思い※
「ジン、ちょっといいかしら」
「……わざわざ何の用だ」
「この男が持ってる情報が欲しいの」
そう言って、封筒を差し出した。ジンは不機嫌そうに中を確かめる。
「ちょっと調べたんだけど、データとして保存されてないみたいなの。だから直接本人に聞くようになるんだけど……」
「それを俺に言ってくる理由はなんだ。こういうのはお前仕事だろ」
「別件があってそれまで手が回らないの。だから、貴方から頼んで欲しいのよ、マティーニに」
その瞬間、ジンから溢れる殺気。ギロリと睨まれるがそれを受け流して続ける。
「だって他に適任がいないでしょ?キャンティやキュラソーには任せられないし、末端の子なんて以ての外……」
でしょ?と視線を向けると、ジンは舌打ちをしてタバコに火をつけた。
「なんでお前から言わねえ……?」
「……いろいろ事情があるの。それに、あの子経験ないらしいから、ちょっと教えてあげなきゃ可哀想でしょ?」
「ハッ……冗談じゃねえ」
「あら、私に重ねるほど気に入ってるのに?」
「ガキに欲情する訳が……」
「そう?じゃあ……アイリッシュにでも頼もうかしら」
バンッとジンが机を叩いた。本気で怒っているようだ。
「てめぇ……どうしようもねえクズだな」
「なんとでも言って」
それが事実だから。こうまでしてジンを煽って、亜夜を抱かせようとしている……本気の恋なんてさせてあげられないのに。都合のいい関係以上のものは求められないのに。
「なんでここまでする……どうせ、これも嘘だろ?」
ジンがさっき渡した封筒を顎で指して言う。
亜夜が貴方のことを想ってるから……そんなこと言えるはずもない。
「さあね……それじゃ頼んだわよ」
ジンの止める声も聞かず、部屋を出た。
「……揃いも揃って不器用ね」
ジンと亜夜だけじゃない。私も同じ。こんなの自己満足にすぎないのに。
亜夜がジンを見る目。一緒にいれば嬉しそうに笑い、いないと知ると少し陰る表情。そして、私とジンが話していると、すごく悲しそうな顔をする。
泣かせたら許さないなんて、よく自分が言えたものだ。
「それでも貴女には笑ってて欲しいの……ごめんなさい亜夜、私にはこんな方法しか思いつかないわ……」
その呟きは誰の耳にも届かない。