第51章 ひとつの可能性
『あー……』
声を漏らしながら椅子に大きくもたれかかった。ずっとパソコンと向き合っていたせいで、体中が軋む気がする。大きく伸びをして首を左右に回した。
『本当にどこに行ったんだろ……』
シェリーが姿を消してから何日経っただろう。未だに見つけたという報告は上がらないし、町中の監視カメラの映像をハッキングしてみたりしてもその姿は見えない。
まあ……赤みがかった茶髪で、一瞬シェリーかと思う後ろ姿の人は結構いる。見落としている可能性も否定できない。
見つけたところで報告する気なんて全くないんだけど。
ジンもあの日以降来ないし。別に避けられているわけじゃない。任務が被ることもあるし、会えば普通に話す。でも、この部屋には来ない。
気兼ねなく調べ物ができるのはいいんだけど……タバコの匂いは少しずつ薄れてるし、ベッドがとにかく広い。
どこで寝泊まりしてるか知らないし……もしかしたら、本当にほかの女連れ込んでるかもしれないし。
『……考えちゃ駄目』
頭を振って嫌な思考を追い出す。今の私にできることは、ジンの気が済むまで待つことだけだ。
一度パソコンをスリープの状態にして、何か飲もうと思って立ち上がる。するとちょうど鳴った着信音。番号を確認して自然と口角が上がるのを感じた。
『もしもし』
「よお、元気か?」
『うん。アイリッシュも元気そうだね。近いうちに帰ってくるの?』
「ああ」
だいたいそうだ。アイリッシュから連絡があるのはアジトに来る時。ごく稀に、なんとなくと言って連絡が来る時もある。
『何かの任務?』
「いや、今回は私用だ。立て続けに任務についたから、その分時間貰ってな」
『そうなんだ。それならどっかで時間合うかも』
「気が向いたらな」
『……まだ何も言ってないし』
「お前の考えてることくらい言われなくてもわかる」
『ならいいじゃん。相手してよ』
組織の力が大きくなっていくと同時に、逆らおうとするヤツらが減った。おかげでせっかく教えて貰った体術の出番がない。体もだいぶ鈍ってるし、本気でやっても大丈夫なのアイリッシュくらいだし。
「まあ、考えといてやる」
『ん、じゃあ半分くらい期待しとく』
「相変わらず生意気な奴だな……とりあえずそれだけだ」
『わかった。またね』
電話を切って今度こそ何か飲もう……水、でいいか。