第5章 それぞれの思い※
ベルモットside―
あの日からしばらく経つが、ジンが亜夜に手出そうとする気配はなかった。しかし、彼女を見る目が以前とは全く違うことにどれだけの人が気づくだろう。同時に亜夜がジンを見る目にも若干の変化が見られた。
それに気づいたベルモットは考えを巡らせた。
どうするのが2人にとっていいのか……。
裏社会で生きていく以上、死は常に傍ににある。それを一度経験している亜夜にとって、近すぎる関係は彼女を苦しめる枷になる。
……それなら、都合のいい関係でいるのがいいのかもしれない。
酷な話かもしれない。今の2人は表には出さないだけで、互いを想いあっているのだから……本人たちにその自覚があるのかはわからないが。
ベルモットは亜夜の部屋を訪ねた。
「マティーニ、ちょっと聞きたいんだけど」
『なあに?』
そう言って首を傾げる彼女はペットボトルの水を口に運ぼうとした。
「貴女、セックスの経験ある?」
『ぶっ……げほっげほっ……』
唐突過ぎたかしら。でも、回りくどいのは面倒だし。
『はあ……はあ、急になんで?』
亜夜は呼吸を整えながら顔を上げる。
「今後の任務の割り振りの関係よ」
『……ないよ』
亜夜は目を逸らしながら恥ずかしそうに答える。
少し驚いた。前の組織ではそういったことはされなかったのか。まあ、年齢的に少し厳しい事もあるだろう。
『私、綺麗じゃないし、スタイルだってよくないから……』
自信なさげな様子は、きっと本気で自分をそう見ているのだろう。
周囲の人間から言わせれば、十分目を引く美人なのに。確かに体つきは豊満ではないけれど無駄がなく、長い黒髪には艶があり、顔のパーツは整っている。
「そんなことないわ。貴女は綺麗よ」
『そうかなあ……』
「あら、私が言うんだから間違いないわよ」
『うん、そうだね。ありがとう』
そう言って微笑む亜夜の顔に女のベルモットでさえ心が揺れるのに、男が放っておくわけがない。
「なら、もうしばらくはそういう任務は無理そうね……」
『ごめんね。できるだけ任務は受けたいんだけど……』
「仕方ないわ。それじゃ行くわね」
そう言って部屋を出る。
さて、ここからどうしようかしら……。