第48章 煙のごとく
『直近で交代したのはいつ?』
「今朝の6時です……その前は昨日の夕方の6時で……」
『気づいたこととかない?些細なことでも』
「特に何も……」
男達はお互いの顔を見合いながら話す。口裏を合わせているようにも見えないし、ただ怯えているだけのようだ。
また頭を悩ませているとウォッカが戻ってきた。
『おかえり』
「はい……何かわかりやしたか?」
『何も』
「あの、兄貴には……?」
『連絡したよ。かなり機嫌が悪いと思う』
ウォッカの顔が険しくなる。でもどうしようもないし……明日からシェリーの追跡でも始めるんだろうか。
その時、スっと背筋に悪寒が走った。どうやらそれは私だけではなかったようで……その場にいる全員の表情が強ばる。中でも見張り役の4人の顔はなんというか……この世の終わりみたいな。
無理もない。これだけの殺気を向けられたら誰だってそうなる。
『ジン』
「あ、兄貴……」
「まともに見張りもできねえ無能は」
低く冷たい声に、見張り役の怯えようが伝わってくる。このまま男達に近づいて何をするかわからない。だから、その間に割って入った。
『……何する気』
「退け」
『監視カメラの映像も確認したわ。彼らはちゃんと……』
後ろの男達の気配が若干柔らかくなった気がする。庇っているつもりはないんだけど。
「だったらなんだ」
『……今、始末するのは早いんじゃない?』
案の定、私の言葉にまた後ろの気配が張り詰める。
「今か後かなんて変わらねえと思うがな」
「ひっ……」
悲鳴のような、情けない声が男達の誰かから上がった。
「……行くぞ」
『部屋の中確認しないの?』
「したって無駄だろ」
確かにそうかもしれないけど……ジンはそう言って来た道を戻っていく。その後にウォッカも続いた。
『とりあえず、指示があるまで待機ね』
男達にそれだけ言ってジンを慌てて追いかけた。
『……この距離で車?』
「うるせえな」
ウォッカは運転席に、ジンは助手席、私は後部座席に乗り込む。
「えっと……どちらへ?」
「……出せ」
「は、はい」
車が動き出す。どこに行くんだろう、なんて考えていると……爆発音が聞こえる。
『え……?』
車窓から外を見ると、つい先程までいた研究所のビルから黒煙が上がっていた。