第48章 煙のごとく
『ちょっ……いいの?』
「何が」
『いろいろ調べたりとか……』
「シェリーがあそこから出た確証もねえし、この方が手っ取り早い」
『まさかこれから行くところって』
「ヤツが関わってた研究所は全て潰す。逃げ場は確実に消さねえとな」
『そうかもしれないけど……』
この様子じゃ研究員達に何も言ってないな……そこから情報が漏れる可能性があるっていうのはわかるけど。その後、近場の研究所をまわりシェリーがいるかどうかを確認。もちろんどこにもいなかった。
さすがに全てを燃やすってことはしなかったけど、シェリーを見かけたら必ず連絡するようにと釘を刺した。
『見知らぬ誰かに匿われてるんじゃないの?』
「……かもな」
アジトに戻り、部屋に戻ればジンは今日何本目かわからないタバコに火をつけた。
『ラムには?』
「言った。連絡来てるだろ」
バタバタしてて見る暇もなかったメールボックスを開くと、ラムから一通のメール。
《シェリーを見つけ次第始末すること》
ただそれだけ書かれたメール。当たり前だ。シェリーはこの組織のことをよく知ってる。万が一、警察なんかに情報を売られたりしたらこちらだってただでは済まない。
「死にたくねえなら従え」
私の思考を読んだかのようなジンの声に顔を上げた。ジンでさえラムの命令に背くことはしない。ラムに対しての口調こそ乱暴だけど。
『大丈夫、わかってるよ……』
「ならいい」
ジンはタバコの火を消して、バスルームへ入っていった。私は立ったまま考え続けることができなくてソファーに座り込む。
従わなければ死ぬ。それが全て。
でも……彼女に向けて引き金を引けるか?いくらラムの命令でもこれには従える気がしない。1人でいる時ならまだしも、誰かと一緒にいたりしたら……その時にどうにか逃がすことなんてできるわけがない。
そう考えている時点で私にシェリーを殺す意思はない。あんな酷い別れ方をしたけど……それでも私にとって彼女が大切な人であることに変わりはないし、できることなら守ってあげたい。
それで全てが許されるとも思ってないけど。これはあくまで私の自己満足に過ぎない。
バスルームから聞こえる微かなシャワーの音を聞きながら、心の中で願った。どうか、シェリーに……志保に会うことがないように、と。