第48章 煙のごとく
「そ、そんなはずはっ……」
「は……馬鹿な……!」
部屋の前に立っていた2人が悲鳴の混じった声をあげる。同じようにウォッカが部屋の中を確認して、その男達に怒鳴りつけた。
「てめぇらどういうことだ!!」
「ほ、ほ、本当に知りません!ドアには触れてませんし、だっ、誰も開けていません!俺たちは言われた通りにっ……!」
『……本当に?』
「はっ、はい!」
その様子からも嘘をついているようには見えない。それもそうだろう。わざわざ言いつけを破る死にたがりなんて滅多にいない。
『……ウォッカ、監視カメラの映像見てこれる?』
「え……?」
『この2人が嘘をついてるかどうかは、それを見ればわかるでしょ……ジンには私から伝えておく』
「……わかりやした、確認してきやす」
ウォッカが去っていくのを見送って、青ざめた顔をしている2人に向き合う。
『見張りは貴方達だけ?』
「い、いえ……交代でもう2人……」
『そう……そのもう2人、呼んできて……ああ、1人は残りなさい』
そう言ってジンに電話をかける。
「……なんだ」
『シェリーが消えたわ』
「……あ?」
『いないのよ、案内された部屋に』
「……チッ」
舌打ちの音だけが聞こえて電話が切れた。やばいなぁ……反応からして、とんでもないくらい不機嫌になっているはず。
『……入っても?』
1人残った男に聞くとゆっくり頷いた。部屋へ足を踏み入れると、少し冷たい空気に包まれる。
隠れられそうな場所はないし、窓だってついてない薄暗い部屋。カメラはついていないか……若干ほこりっぽい。そして、柱にぶら下がったままの手錠。両方とも輪になったまま。
いくら細身だからって、これを外すのは無理だろう。無理矢理にでも外せば、皮膚が切れたり血が出たりするはず。でも、見る限りでは手錠に血はついていない。
この部屋から外に繋がるのは、入ってきたドア。そして、ちいさなダストシュート。少しだけ開いてみたけど……どうやったら、大人がこんな小さいところを通れるだろう。
首を傾げているとウォッカから電話。
『……どうだった?』
「シェリーの姿はどこにもありやせんでした」
『映像がすり替えられている可能性は?』
「おそらくないかと」
『わかった。ありがと、戻ってきて』
電話を切り、この部屋を監視していた男達と向き合った。