第5章 それぞれの思い※
ジン&ベルモットside―
事の発端はベルモットの一言だった。
「ジン、貴方最近何考えてるの?」
シャワーを終えてバスローブに身を包んだジンに向けて問う。
……普通女が先にシャワー浴びるものよ。
こんな風にお互いの欲を満たす関係になってしばらく経つ。最初の頃は、どちらが先にシャワーを浴びるか言い合いになったが、行為後さっさとバスルームに向かうジンに、言葉をかけなくなったのはいつからだろう。
「あ?何の話だ」
ジンはタバコに火をつけた。
「……とぼけてるの?それとも本当に自覚ないの?」
「だから何の話だって言ってんだろ」
荒々しくタバコを灰皿に押しつけ、そのまま次のタバコへ手が伸びる。
「はあ……じゃあ聞き方を変えるわ」
呆れたと言わんばかりのベルモットの態度に、ジンは彼女を睨みつける。
「私と……誰を重ねてるの?」
タバコに伸ばされた手が止まる。
「……どういう意味だ」
「そのままよ。貴方、目を瞑ったままのこと増えたから……てっきり誰か他に抱きたい女でもいるのかと思って」
まあ、誰かなんて聞かなくてもわかるけどね、と言ってベルモットはバスルームへ向かった。
残されたジンは手に取ったタバコに火をつけることなく、深いため息をついた。そして、自嘲とも取れる笑いを零す。
「誰と重ねてる……か」
頭をよぎるのは1人だけ。マティーニ……亜夜の姿だった。
いつからだろう、行為中のベルモットに亜夜の姿を重ねるようになったのは……1人の女として見るようになったのは。
出会った時の印象は良くなかった。ただ生意気なガキだと思った。それなのに……。
「その顔は思い当たることがあるのね」
いつの間にシャワーを終えたのか、ベルモットがそこにいた。ただ、いつもと違う。バスローブ姿ではなく、私服を着てメイクを施した彼女。いつもなら行為後、シャワーを浴びてそのまま泊まっていくのに。
「帰るわ。他の女を思ってる男と寝るなんてごめんだし……それに今日でこの関係も終わりね。自分を見てくれない男に抱かれるなんて屈辱だわ」
これでも女優のプライドがあるし。と言ってベルモットは出口に向かう。ドアを開く前に振り返ってジンと視線を合わせる。
「誰とどんな関係になっても口出すつもりはないけど……あの子を泣かせることは許さないわよ」