第45章 あの子の願い
……明美はあの男の本当の名前を知らないか。
おそらく……いや、間違いなくあの男のために用意されたであろうプレゼント。組織に関わっている時点で、NOCである人間に接触することなんてできるわけがないのに。
だとするならば、与えられた任務を遂行成功させることができたなら、組織から解放する。それが約束されたんだろう。
明美はそれを受けた。組織の監視がなくなれば、またあの男に会える。きっとそれだけじゃない。志保も、解放するとでも言われたんだ。
組織としては成功するなんておもってもいなかったはずだ。だから、失敗したことを理由に始末するはずだったんだろう。一度、NOCの人間と関係があった以上、警戒するに決まってる。
それなのに、成功してしまった。でも、奪われたお金が組織のものになることはなく……明美は殺された。
あくまで、私が今知っていることやこの状況から考えた根拠のない理由。それが本当かどうか確認する気はないし、したところで私が得られるものだってない。
持っていたバックにそれをいれた。遅かれ早かれそ式の手はここに届く。これ以上彼女を疑わせることはさせない。
『失敗したな……』
もう少し大きめのバッグにすればよかった。そうは言っても、借りたハンカチと傘、そしてこのプレゼント。どれも入れる予定などなかったのだから仕方ない。
部屋を出る前にぐるっと中を見回す。もう見落としはないはず。
自分の痕跡も残さないようにして、また少しだけ開いたドアの隙間から出る。そして、来た時とは逆にピッキングで鍵を閉めた。そして、足早にそのマンションから離れる。
警察がこの場所を割り出すのにはきっと時間がかかる。もしかしたら、そんな時もこないのかもしれないけど。
容疑者の名前は広田雅美。部屋を借りていたのは宮野明美。それを知っているのはきっと組織の人間だけだ。下手したら二度とあの部屋のドアは開かれないのかもしれない。
アジトに向かう途中にあったゴミ箱。プレゼントを取り出し、あの男の偽名が書かれた部分を上手く剥がして捨てた。この状態なら見つかっても言い訳ができる……はず。まあ、渡す気もないんだけど。あくまで明美がこれ以上疑われないようにするためだから。
そもそもジンが私の部屋のクローゼットを開けることはないし、そこにこの包みもハンカチも傘もうまく隠すつもりだ。