第45章 あの子の願い
「本当にもう大丈夫ですか?」
『うん、大丈夫。また呼ぶかもしれないけど』
「構いませんよ。すみません、送って行けなくて」
『1人になりたいしちょうどいいわ。本当にありがとう』
帰る間際に軽く触れるだけのキスをして、バーボンの家から出た。なんだかんだ入り浸ってしまって、もう日が暮れかけている。変装の道具は持ってなかったから、格好は素顔にライダースーツ。この時間でこの暗さならそう目立たない。
それに、今日はアジトに帰る前に寄りたい所がある。
『こんなふうに歩くの久々だな……』
常に周囲を警戒し、人気のない道を選んで目的地へ向かう。最近じゃ尾行なんてほとんどしない。
『……ここか』
そしてついたのはマンション……宮野、と表札が出ている。ここは明美が借りていた部屋の前。結局、彼女がいる間にお邪魔することはなかったのだけど。
組織の人間の気配はない。きっとまだここのことは嗅ぎつけていないはず。志保が口を割るとも思えないし。
以前のところより、若干セキュリティは上がったように思うけど私から言わせれば大したことない。ピッキングの道具を取り出して鍵穴に差し込み数十秒。あっという間に鍵は開いた。
開けたドアの隙間からそっと忍び込み、すぐに音が立たないように鍵をかける。もちろん、指紋がつかないように手袋はしてる。
前の部屋より少しばかり広い気がする。大きめのソファーなんてなかったし。その前のローテーブルに置かれた黒い固定電話はもちろん留守設定。本も増えていて、医学に関するものが多いか……?
そして、デスクの上にはたくさんの資料。あの計画を練るために使ったんたろう。周辺の地図、時間帯ごとの混み具合、逃走経路やお金の引渡し場所まで。
書き込みやその資料の多さからも、絶対に成功させるという意思が汲み取れる。一体、組織は何を餌にして彼女にこれをやらせたのか……本人には聞きようがないし、志保は知ってるのかもしれないけど今更合わせる顔もない。
デスクの奥の方には、志保のラボにあった写真と同じものが置かれていた。
『……何もないか』
そう呟いて部屋を出ようとした。が、なんとなく向けたベッドの枕元。置かれていた包みが目に入った。プレゼントか?赤い包装に巻かれたリボン。
『……忘れてなかったのね』
書かれていたのは、Dear Dai.M……あの男の名前だった。