第45章 あの子の願い
アジトに戻って自室のドアを開けると、微かにシャワーの音が聞こえる。ジンだな……コートも帽子も置きっぱなしだし。
それをハンガーにかけるより前にバッグの中のものをクローゼットにしまった。クローゼットの扉を閉めると同時にバスルームのドアが開く。振り返ると上半身裸のジン。
『……ただいま』
「どこにいた」
『そんなのわかってくるせに』
続けてシャワーを浴びようとジンの横を通り過ぎた。が、ギリギリのところで腕を掴まれて、そのまま壁に押し付けられる。腕を掴む力が強すぎて思わず顔を歪めた。ジンの髪から冷たくなった雫が頬に垂れた。
「他の野郎に抱かれたくせにずいぶんな態度だな」
『気に入らないなら抱けば?……ああ、それとも殺す?』
ジンの目を睨みつけながらそう言った。掴んでいた手が離れていって、滞っていた血がまた指先まで流れていく。
「……その胸糞悪い匂い落としてこい」
ジンはそう吐き捨て、こちらに背を向けてソファーに座った。
『今回のこと、責める気はないけど……許す気もないから』
何の感情も読めない背中に向かって言葉をかける。ジンの顔がこちらに向けられる前にバスルームに入った。
『胸糞悪い匂いってなによ……』
香水はつけてないし、ボディーソープはここにある物とバーボンの家にある物は同じ。だとしたら気に障ったのはシャンプーの香りかな……。
それを落とすために丁寧に髪を洗って、更にトリートメントをする。これなら大丈夫だと思うんだけど。
服を着て、濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に戻る。ジンはベッドの上に座っていた。喉が乾いたので冷蔵庫から水の入ったペットボトルを出す。数回に分けて口に流し込んで、残ったそれは冷蔵庫に戻す。
そしてベッドにゆっくりと歩み寄る。ジンの視線は一瞬だけ向けられて、またすぐに逸らされた。
『……ちょっと寄って。寝たいんだけど』
そう言うと小さい舌打ちが聞こえて、ジンが半分寄った。
なんだ、てっきり酷く抱かれると思ったのに。そんなことを考えながらベッドにうつ伏せで横になる。
チラッとジンの方を見るとこちらを見ていたジンと目が合った。
『……なに』
「気に入らねえな……」
『は?……えっ、ねえ……!』
上に乗られて、下着も一緒にズボンを下げられる。体を起こそうとしたけど、頭を押さえつけられて動けない……。