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【名探偵コナン】黒の天使

第44章 違うからこそ※


「……亜夜?」

すぐ横で名前を呼ぶ声がした。手の甲で涙を強めに拭って腕をおろす。

「すみません、嫌でしたか……?」

『違う、これは貴方が悪いわけじゃない』

起き上がって大きくため息をつく。動き出した思考は簡単には止まってくれなくて、どうにか拭い去った涙もまた滲み出してきた。

「……水、飲めますか」

その問いに小さく頷けば差し出されるグラス。冷えた水を一口口に含んで、ゆっくりと喉奥へ流し込む。そのままバーボンのことを見た。軽く首を傾げられたけど気にしない。

金色の短い髪。褐色色の肌。少し下がった目尻と優しい瞳。事後のせいか熱い体温。そしてタバコの匂いなんて欠片もない、彼自身の匂い。

ジンとは真逆の姿なのに、どうしてこんなにも安心できるんだろう。いや、もしかしたらここまで違うからこそのものなのかもしれない。ジンより先にバーボンに会っていたら、好きになれたんじゃないかって本気で思う。

でもそれは、起こりえなかった現実だ。私が先に出会ったのはジンだから。

「亜夜?」

『……ごめん』

「……どうしましたか?」

『この先、私が貴方を好きになることは、ないと思う』

「でも……」

『貴方の言う、僅かな可能性がないとも言えないけど、そっちに私の気持ちが傾くことは……』

「それでもいいです。それでも、僕は貴女と一緒にいたい」

そっと、壊れやすい物に触れるかのように弱い力で抱きしめられた。でも、私から腕を回すことはできなかった。

『本当、優しすぎるよ……』

バーボンから拒絶されない限り、またこうして彼のことを利用するんだろう。そんな自分が何度も嫌になるのに、受け止めてくれる優しさから離れようとも思えない。

本当、どこまで自分勝手でわがままで、酷い女なんだろう。

「大丈夫です。これからも、貴女が望む限りそばにいますから」

『……うん』

身体が離れて、どちらからともなく唇を合わせた。

『……続き、する?』

「……無理してませんか?」

『してない。これ、終わるまでするんでしょ』

あと2つ残ったゴムの袋をチラッと見た。

『残りの時間は、貴方のことだけ考えるから』

「最高ですね……でも、辛かったらすぐに言ってください」

キスも触れてくれる手も、今まで以上に意識して。彼からの気持ちを全身で受け止めた。
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