第43章 純粋な優しさ
『冗談よ。来てくれてありがと』
「いえ、じゃあ行きましょうか……僕の家でいいですか?」
『うん』
バーボンの車に乗り込むと、静かに車が動き出した。
「どうぞ」
『……お邪魔します』
なんかここに来るのは久しぶり。食器の類は何も出ていないし、洗濯物だって全部しまわれている。相変わらず生活感の薄い部屋。
「あ……食べる物がないか……ちょっとコンビニに行ってきます。その間にシャワー浴びててください」
そう言ってまた出ていこうとするバーボンの服の裾を無意識に掴んだ。すると彼が振り返る。
「……どうしました?」
『えっ……あ、なんでもない……』
「……すぐ帰ってきますから」
そう言って私の額にキスを落として出ていった。パタン、とドアの閉まる音が響く。シャワー……今日はするんだろうか……。
『……まだあるし』
バスルームに入って目についた、私がしばらく滞在した時に使っていたシャンプーやリンス等々……1ヶ月程しか使ってなかったから中身も半分以上残ってるし捨てるのはもったいない気がするけど……今はこのメーカーのやつ使ってないんだよなぁ……。
久々に使うシャンプーの香りにいろんなことを思い出す。嬉しかったことも楽しかったことも……もちろんついさっきのことも。
一度晴れたように思っていた気持ちにまた靄がかかる。あの子供達の優しさがあったのは確かに救いだったけど、それだけじゃ拭いきれないほど。
嫌な気持ちを追い出すようにさっさとシャワーを浴び終えた。そして、置きっぱなしだった服を引っ張り出す。すると、またドアの開く音がした。
「あれ、早いですね。温まりましたか?」
『……うん』
「髪、ちゃんと乾かしてくださいね。これ、好きな物どうぞ。あ、コーヒーでも紅茶でも好きにどうぞ」
コンビニの袋を手渡されて、バーボンもバスルームに消えた。
ぼーっとしながらお湯を沸かす。駄目だ、1人になると何度もあの後悔が襲ってくる。頭を抱えて思考を追い出そうとしても、必死になっていくほど深く奥まで入り込もうとしてくる。
『やだ……やだっ……』
明美はどんな思いで死んでいったんだろう……志保はそれを知った時どんな気持ちだったんだろう……胸が苦しくて痛くて辛い。
その苦しみから逃れたくて、手探りで掴んだ物を自分の腕に押し当てようとした。