第43章 純粋な優しさ
「だ、大丈夫です!途中まで元太くんに入れてってもらうので!」
『……そう、それなら借りるわ。ありがとう』
そう言って差し出された折りたたみ傘を受け取ると、3人は誇らしげに胸を張った。
「困ってる人を助けるのが、僕たち少年探偵団の役目ですから!!」
『少年探偵団?』
「そう!本当はもう1人男の子がいるんだよ!」
「姉ちゃんも何かあったら言ってくれよ!また助けてやるからよ!」
『わかったわ。その時はお願いするわね……これ必ず返しに行くから』
そう言って私は財布を出した。中を見ると……450円。1人150円ずつかな。
『お礼には足りないかもしれないけど、好きな飲み物でも買ってね。雨だから気をつけて帰るのよ』
「わあ!ありがとう!」
「姉ちゃんも気をつけろよ!」
「それじゃまたとこかで!」
そう言って3人は離れていった。財布には1万円札しかなくて、これじゃあ自販機では使えない。代わりに渡された雨を口に入れた。寒さが増したような気がしなくもないけど、泣きすぎた喉や鼻にはいいかもしれない。
『あ、名前……は聞いたか』
名前を聞いてしまえば、私も名乗らなければならない。運良く会話の中で子供たちの名前を聞けたのはラッキーだった。下の名前だけでも、学校とか割り出すことはできる。
借りたピンクの花柄のハンカチで髪の先に溜まった雫を拭き取って、借りた傘をさして、道路からも見えやすい位置に立った。
言葉こそ直接的だったけど、純粋な優しさだったのかもしれない。生きている世界のせいなのか、そもそも大人とはそういうものなのか……優しさの中に何かを見出そうとする。大きな見返りだったり、下心だったり……今まで浴びてきた言葉の多くにはそれが含まれていた。
だから、ただの優しさだけのものは新鮮だった。困ってる人がいたから助けた。彼らにとってはそれだけだったのかもしれない。
『少年探偵団……探偵、ね』
また会うことになるだろう。いや、会わなければ。借りたものを返す約束をしたのだから。
バーボンが来たのはそれから更に1時間程後のことだった。
「……大丈夫ですか?」
『うん』
「……その傘と、ハンカチは?」
『たまたま通りかかった子供たちが貸してくれた』
「えっと……」
『……さすがに子供から奪い取る趣味はないわ』
「えっ、いやそんなつもりじゃ……」