第42章 遅すぎた知らせ
『あ……あ……』
言葉にならない声が口から漏れる。そして、そのまま床に崩れるように座り込んだ。
明美を死なせてしまった。志保を深く傷つけてしまった。どうしようもない後悔に体が押し潰されそうで……あの時、余計な感情に邪魔されず、ライを始末していたら明美の疑いは晴れていたのか。そもそも、2人と仲良くなっていなければ、2人にこんな絶望を与えずに、私自身もこんなに苦しまなかったのか。
震える手で自分の髪をぐちゃぐちゃに掻き乱した。涙で滲んだ視界に映るものは、何が何だか全くわからない。
『っ……あああああああっ!!』
一瞬で喉が擦り切れるくらいに叫んだ。こんな風に大声を上げて泣くのは初めてだった。
この計画に気づいた時にはもう既に始まっていて、全てを知ったのは何もかもが終わった後だった。
この計画を企てたのはきっとジンで、私に伝えないようにさせたのもジン……それなのに、どうにか理由をつけて、ジンのことを許そうとしている自分が何より嫌で憎くて堪らなかった。
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『はぁ……はぁ……』
泣きすぎて息も切れていた。やっと止まり始めた涙。擦りすぎてヒリヒリと痛む目元。顔全体が重だるくて仕方ない。
一度顔を洗い流そう。そう思って立ち上がろうとしたけど長い間変な座り方をしていたせいで、両足とも見事に痺れていた。
『わっ……』
そんな状態じゃまともに立てず倒れ込んだ。しかも、その先には割れたグラスの破片が散らばっていて、咄嗟についた手の平にいくつかが刺さった。それでも痛みを感じないほど感覚が鈍くなっているようだ。
薄ら滲んだ血を水で洗い流すと、少しだけピリッとした痛みを感じた。鏡に映る顔なんて今まで見たことがないくらい酷い。
顔を洗って、乱れた髪を整える。財布とスマホ、そして小さめのバッグを持って、服装はいつものライダースーツのまま変装もせずに部屋を出た。
《2、3日で帰る。必要なこと以外連絡しないで》
ジンにメールを送り、外に出る。今の私をそのまま表したような曇天。すぐに雨が振り出すだろう。傘はないけど、目的地までは走ればそう時間はかからない。
ただ、黙っててそばにいてくれる人……何も聞かずに優しく抱きしめてくれる人なんて今は1人しか思いつかない。
またアジトに戻って不機嫌なジンを相手にするかもしれないけど、今私が一緒にいたいのはバーボンだから。
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