第42章 遅すぎた知らせ
志保side―
「……亜夜姉っ!」
そう言いながら勢いよく立ち上がったけど、彼女は振り返ることなく出て行ってしまった。
亜夜姉が出て行った部屋にパタンと閉まったドアの音が響く。動くこともできず、言葉も出てこなくて1人残された部屋に立ち尽くした。
「私、一体何を……」
自分の言ったことが信じられなくて、頭を抱えた。
彼女の言ったことを100%信じられるか、と聞かれてすぐに頷けるわけじゃない。もしかしたら、ってどこかでまだ疑う気持ちがある。でも、あの声や表情、あの涙の全てが嘘だとも思えなくて。
「どうしよう……」
一気に気持ちを吐き出したおかげか、いくらか冷静になった。お姉ちゃんを失った悲しみや怒りはまだ胸の奥でフツフツと湧いている。それに加えて、亜夜姉に対する罪悪感が湧き上がってきた。
もう1回会ってちゃんと謝りたい。あんな風に言って簡単に許されるとも思わないけど、本心じゃないって言いたい。本当は亜夜姉のことも大好きだよって言いたい。
―もう、会いにこないから……
彼女はそう言った。きっと、よほどのことがない限り言葉通り会いに来てはくれないのだろう。このまま会うこともできず、謝ることもできないのか……数分前の自分を殴りに行きたい。
どちらにしても、もう研究を続ける気はない。もし仮に、ジンがこの件について話すようなことがあったとしても、もう組織の言いなりになるのはごめんだ。
もちろん、研究を滞らせて反発を続ければ私にも何らかの処分は下されるはず。もしかしたら、私も消されるかもしれない。
でも、それでいい。例え死んだとしても……向こうに行けばまた家族に会えるかもしれないんだから。唯一の心残りは亜夜姉に謝ることができないことだ。
ふらふらと立ち上がって、例の薬のケースを開けた。そしてその内の1粒を白衣のポケットに放り込んだ。これはあくまで保険。この先、すぐに処分が決まらないようなことがあって、ただ待たされるだなんてごめんだ。だったら自分で終止符を打ちたい。
私にも20%の可能性を掴むだけの運があれば、話はまた変わってくるのだけど……そもそも期待なんかしてない。
どんな理由があっても、その気がなくても……私が毒薬を作っていて、それによって人が死んだのは事実……私も犯罪組織の一員だから。