第42章 遅すぎた知らせ
『それはっ……』
「この件のことだって知ってたでしょ?!どうして止めてくれなかったのよ?!」
『任務があることは知ってた……でも、まさか明美がなんて……』
「それも本当なのかしらね……全部嘘にしか聞こえないわ」
『志保……』
「信じてたのに……所詮貴女だってそっち側だったってことでしょ」
『っ……』
「……最初から信じなきゃよかった」
志保が発する言葉は鋭い針になり、次々に胸へと突き刺さっていくようだった。痛くて苦しくて仕方なかったけど、今この場で私が泣くわけにはいかない……いや、泣くことを許されるわけがない。
だって、私より志保の方が辛いはずなんだから。
零れそうになる涙を意地でも抑えようと、奥歯を噛み締めて拳を固く握った。
「……い」
『志保……?』
志保からボソッと漏らされた声は完全に届いて来なかった。だから、思わず聞き返した。
「嫌い……貴女なんかっ、大っ嫌いっ……!」
『っ……』
今までの言葉の針とは比べ物にならないほど……大きくて鋭いナイフで胸の奥深くを抉られるような感覚があった。息を飲んで、無意識に下がろうとした左足がコツン、と床を鳴らした。
そして、左目からゆっくりと一筋の涙が零れた。
『フッ……そっか……』
自嘲の笑いが漏れる。涙は零れ始めたら止まらなくなった。
『ごめん……』
思考が回りきらなくて、出た言葉はまた謝罪だった。志保の視線がこちらに向けられて、その目が少しだけ見開かれた。
『全部私が悪いね……ごめん、何もできなくて』
涙を乱暴に拭って下がろうする口角を無理矢理上げて、志保の目をまっすぐに見た。
『私は……明美のことも志保のことも大好きだよ……信じられないかもしれないけど』
「亜夜姉……」
『もう、会いにこないから……』
「っ……待って……」
『一緒にいられて楽しかった。幸せな時間をくれてありがとう』
「……亜夜姉っ!」
『……さよなら』
志保の声を無視して、ドアを乱暴に開けて部屋を飛び出した。そして、自室までの道を全力で走った。
その間も溢れ続ける涙を拭って、周囲なんて見えてないから何度か人にぶつかった。今は人のことなんて気にしてられなかった。
自室のドアを開けると中には誰もいなかった。でも、机の上に当てつけのように置かれた新聞が目に入った。