第42章 遅すぎた知らせ
《亜夜と志保と、3人で一緒にいられた時間は本当に楽しかったし、幸せだった。血の繋がりこそないけど、亜夜はちゃんと私達の姉妹だと思ってる。
本当に本当に大好きだよ。これからも元気でね。今までありがとう》
1件目を読み終え、震える指先で2件目のメールを開く。
《あと……こんなこと考えたくはないんだけど……もし、私に何かあった時は、その時は志保のことよろしくね》
2件のメールが送られて来たのはあの事件の前日。このスマホの調子がおかしくなった翌日。崩れ落ちそうになる体に鞭を打って、志保のいるラボへと足を進めた。
でも、会ったところで何を言っていいのかなんてわからない。考えがまとまらないまま部屋の前について、ドアノブに手を伸ばした。
「だからわかるように説明しなさいって言ってるのよ!!」
閉まったドアの向こうから志保の怒鳴り声が聞こえて、思わず伸ばしかけた手を引いた。そんな状況の部屋に入る勇気もなくて、ドアにそっと耳を押し当てた。
「……てめぇは研究を続ければいい」
「冗談じゃない。何の説明もないのに納得できるわけないでしょ!!」
「あの女と同じになりたくねえなら従え」
ドア越しに近づいてくる足音に気づき、慌てて身を隠した。今、ジンに会ったら……私、何をするかわからない。
反対方向へ去っていく足音を確認し、再びラボへ近づく。大きく息を吸って、ゆっくり吐いて……そっとドアノブを回した。
『……志保』
椅子に座り込んで項垂れている志保に呼びかけた。机の上に投げ置かれた新聞。見出しには大きく[10億円強奪犯自殺]と書かれ、人集りの中に倒れる人を写した写真があった。
「……何の用」
志保の掠れ気味の声に顔を上げた。その様子に言葉をどうにか絞り出した。
『ごめん……』
「ごめんって……今更どういうつもりよ」
項垂れたまま志保が発する言葉に何も言えない。必死に言葉を探して、零れ落ちそうになる涙をどうにか抑えて……。
「……なんで守ってくれなかったの」
『え……』
「貴女言ったじゃない、絶対守るって……あれは嘘?」
『違う……!そんな嘘なんて……』
「じゃあ、どうしてお姉ちゃんを助けてくれなかったの?なんでお姉ちゃんのメールに返事してくれなかったの?」
『それはスマホの調子が……』
「へぇ……こんなタイミングで?」