第41章 嫌な匂い
志保side―
「今日の夜会えない?」
お姉ちゃんからそんな連絡が来たのはお昼すぎ。ゆっくり片付けようと思っていた仕事を気合いでどうにか終わらせて、ちょっと浮ついた気持ちで支度をした。
「……にしても珍しい」
お姉ちゃんから誘われる時は、だいたい数日前に連絡がくる。こんなに急なのは初めてかも……でも、時間ができたからとかそんな理由だろう。
指定された喫茶店の前で待つ。待ち合わせの時間より少し早く着いてしまうあたり、単純だよなぁなんて思う。
亜夜姉も誘おうか迷ったけど、たぶん仕事だし今回は我慢。以前に比べて会う頻度も多くなったし。それに……今、顔を合わせても普通でいられる自信がない。だって……
「志保、お待たせ。早かったね」
「うん、仕事急いで……」
お姉ちゃんの声に振り向いて答えかけたところで感じた、あの嫌な匂い。組織の奴らから感じる……匂いというか気配というか。
「お姉ちゃん……?」
どうしてあの匂いがお姉ちゃんからもするの?なんで?どうして?なんて疑問が頭の中を駆け巡る。
「志保?どうかした?」
「……」
「おーい、大丈夫?」
「えっ、あ、大丈夫。仕事詰めたせいかも」
今、ちゃんと笑えてるかな。挙動不審だったりしないかな。スマホを持ち歩くことを条件に、監視はつかなくなったしこの近くに組織の人間がいるってわけでもない。だから、匂いは間違いなくお姉ちゃんから感じる。
店に入って、ケーキと紅茶のセットを選ぶのにも時間がかかった。運ばれてきた彩りが綺麗なケーキも、香りのいい紅茶も味がよくわからなかった。
「ねえ、志保」
「……ん?」
「志保はさ、ここを抜けたらやりたいことってある?」
「急にどうしたの?」
「なんとなくよ。夢とかない?」
そう話すお姉ちゃんの顔からは疲れも見えたけど、それ以上にどことなく嬉しそうな様子だった。
「……普通の生活ができればいいかな」
いつだったか、亜夜姉と話したことを思い出しながら言った。そう言うと、お姉ちゃん はそっかと言って微笑んだ。
「……何かあったの?」
「本当になんとなく。まあ、私だって監視のない生活はしたいし。人目を気にせずに買い物したり……恋したり」
「そう……いつかそうなるといいね」
そこからもいろいろ話した。でも、違和感がたくさんあった。