第41章 嫌な匂い
「お姉ちゃん……」
亜夜姉が出ていった部屋に小さく漏らした呟きが消えた。
亜夜姉に会えば確かめられると思ったから、会えないかと聞かれてすぐに了承した。私の感覚がおかしくなってるだけ、そう信じたくて。でも、あの感覚に間違いはないらしい。
だって、いつもと同じように……亜夜姉からはあの匂いを感じなかったから。
教えてはくれないけど、亜夜姉だっていろんなことをしてるはず。取引やハッキング……もしかしたら殺しも。どうしてなのかわからないけど、亜夜姉も組織の人間なのに、1度もそれを感じたことがない。
「……何をする気なの」
お姉ちゃんが何か大きなことをするのはたぶん間違いない。でも、問い詰めたって話してくれない気がする。
ため息をついて椅子から立ち上がると、1件のメールが入った。差出人はお姉ちゃんで。
《ずっと黙ってるのは嫌だから伝えておくね。もしかしたら気づいたかもしれないけど、今度大きな仕事を引き受けることになったの。それが上手くいったら、志保を組織から抜けさせてくれるって。私の監視もなくなるって。私、頑張るから。
それと、このことは亜夜には言わないで》
広田雅美って偽名を使うことや、その仕事の日時なんかも書いてあった。
「組織から抜ける……?」
そんなことが可能なの?もしそうだとしても仕事の内容はとんでもないくらい危険だろう。お姉ちゃんはまともに組織の仕事なんてやったことがないはずたから。もしかしたら最悪のことだって……。
それなのに、止める気にもなれない。この暗い世界から出られるかもしれない。そんな希望が湧いてくる。
でも、そうしたらきっと亜夜姉にも会えなくなる。そこだけ心残りではある……連絡取るくらいできないかな。本当にお世話になったし、大好きだし。
何にしても、お姉ちゃんの仕事と言うのが上手くいくことを願うしかない。話はそれからなんだから。
「絶対大丈夫……だよね」
でも、この時に組織の思惑に気づいてお姉ちゃんを止めるべきだった。組織のやり方を知らないわけじゃない。奴らがどうしてそんな話をお姉ちゃんに持ちかけたのかもっと疑問に思うべきだった。
お姉ちゃんの言葉を無視してでも、亜夜姉に話していたら……どれだけ悔やんでも悔やみきれない。