第41章 嫌な匂い
『……明美、何かあったのかな』
呟いた声に志保の返事はなかった。
アジトに着いて、志保と一緒にラボまで歩く。その間もいつもより言葉が少ない。志保はさっきより思い詰めたような顔をしている。
「紅茶入れるわ。乗せてくれたお礼に」
『そう?それじゃお言葉に甘えて』
部屋に入って椅子に座る。志保はコートを脱いで飲み物の用意を始めた。
『あ、そうだ。これ返す』
「ん?ああ……」
そう言って例の薬のケースを差し出した。志保はそれを受け取って蓋を開けると、1粒減った薬を見て小さくため息をついた。
『ごめん、止めたんだけど……』
「いいわ、全部使われなかっただけ」
何か今日、目も合わない。私何かしてしまったかな……。
しばらくして紅茶の入ったカップと、先程買ったお菓子が出される。私はそのカップにそっと口をつけたけど、志保はそれに手をかけたまま動かない。
『……志保?』
「……ん?」
『大丈夫?元気ない?』
「……ちょっと考え事」
『そう……』
言い方とか雰囲気とか……きっと言いたくないことなんだろうな。そういうのは私だってあるし、無理に聞くつもりもない。
「……誰に使ったの?」
『え?』
「薬」
『ああ……取引現場見られてね。工藤新一って知ってる?』
「名前くらいは。顔は知らないけど」
『明日か明後日にはニュースになるんじゃないかな。結構有名人だし』
「そう……」
私は残っていた紅茶をグッと飲み干し、席を立った。
『今日は帰るね』
「うん。あの……」
『ん?』
「……ううん、なんでもない。じゃあね」
『うん、またね』
ラボを出て自室までの道を歩く。志保は何を言いかけたんだろう。
『……不安ならちゃんと話してくれるよね』
モヤモヤしながら自室に戻って椅子にかけた。ジンのコートが放ってある。シャワー中かな。そこでふと、机の上に置かれた資料が目に入る。
『何これ』
任務の計画?にしてもこんなの初めて。何より1番上の行に書かれているのは
『10億円強奪……』
パラパラとページをめくってみるけどずいぶん練られた計画だ。でも、関わる人間に幹部の名前はない。
『広田雅美……』
聞いたことのない名前。末端の人だろうか。
「……勝手に見るな」
『あ、ちょっと』
資料を取り上げれて、それをしたジンを睨んだ。