第40章 トロピカルランドにて
顔を上げてぶつかった人を見た。そこにいたのはよく覚えのある2人。
「ったく、ちゃんと前見て歩けって言ったろ」
「うん……あの、本当にすみません。服汚れてないですか?」
『私は大丈夫……でも、ごめんなさい。飲み物こぼしちゃったわね』
「あ……いいんです、もうほとんど空だったし」
『そうかもしれないけど……お詫びに買わせて。デートの邪魔しちゃったみたいだし』
「でっ、デートじゃないですっ!新一……彼とは幼なじみってだけで……」
狙ったわけじゃないけど、聞こえた名前に確信した。あの時の子達だ。あの夜、助けた……女の子の方は蘭って名前だったかな?
「悪ぃ、蘭、トイレ行ってくる」
「えっ、あ……この辺にいるから!」
「おう」
そう言って男の子の方は行ってしまった。
『彼、高校生探偵の工藤新一君よね』
「知ってるんですか?」
『有名じゃない。迷宮入りしかけた事件を次々に解決!って、連日ニュースでも新聞でも』
「そうですね……でも、この間も私の大会の応援ほっぽり出して事件解決に行っちゃって……でも、事件に関わってる新一ってすごく生き生きしてて」
ちょっと不満はありそうだけど、でも嬉しそうに話す様子を見て呟いた。
『……付き合ってはいないみたいだけど、貴女彼のこと好きなのね』
「へっ?!」
『隠す必要ないわ。悪いことじゃないでしょ?』
「わ、わかりますか?」
『まあね』
「あの……どうしたらいいと思いますか?」
顔を赤くしてモジモジと言う辺り、そういったことには疎いのだろう。でも、私だってまともな恋愛をしたことがあるわけじゃない。
『そうね……誰にも取られたくないなら、ちゃんと捕まえてないと駄目よ』
「捕まえる、ですか?」
『男なんてすぐどこかへ行っちゃうから……恥ずかしくても、ちゃんと気持ちを伝えた方がいいと思うわ』
あたらしく買った飲み物を差出しながら言った。それを受け取りながらも不安そうな顔を浮かべる。
『勇気がいるのは最初だけよ』
「……頑張ってみます」
『応援してるわ』
そんな話をしていると、戻ってきた彼の姿が見えた。
『それじゃ、彼も戻ってきたみたいだし私はこれで』
「あ、あの!」
『何かしら?』
「私、毛利蘭っていいます。お名前聞いてもいいですか?」
『……亜夜よ。また会えるといいわね』