第38章 X・Y・Z
湿った髪が首に張り付くのが鬱陶しい。かえって寒くなる気もしたけど、持っていたヘアゴムで髪を結い上げた。
「……」
『何……あっ……』
首に冷たく向けられる視線。そういえば、またキスマーク付けられてる。でも、今更見られたって……ウォッカは何回も見てるだろうし気にしない。
コトンと目の前にグラスが置かれた。それを持ち上げてその香りを吸い込む。
『X・Y・Z……これで終わり、ね。最後に飲むには上等すぎるんじゃない?』
「……」
そっと口へ運んだ。絞ったばかりのレモンの香りも相まってとても美味しい……まさに究極のカクテル。
数回に分けてゆっくりと飲み干した。アルコールのおかげか、少しだけ温まったようだ。空になったグラスを置くと、またコトンと音を立てた。
『……それじゃ先に行ってる』
ジンのコートの右ポケットから車のキーを抜き取った。睨まれたが、それに呆れたように肩を竦める。
『急がなくてもいいけど、長い間待たせないでよ……マスター、また来るわ』
バーの扉を開けるとサイレンの音が鳴り響いていた。
「……止めた場所、知らねえだろ」
すぐ後ろで声がして振り返るとジンもウォッカもすぐ後ろにいる。手に持っていたキーを奪われて、歩き出したジンの後ろをついていった。
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『ふぅ……』
部屋に戻ってすぐシャワーを浴びた。指先にじわじわと血が巡っていく感覚。薄ら紫色になってたからよっぽど冷えていたんだと思う。明日、風邪ひかないよね……。
バスルームを出れば、タバコを加えたジン。戻ってきたのは15分ほど前なのに、灰皿にはもう既に2本の吸殻。
その姿を横目にスマホを開けば、米花港で爆破事故、とネットニュースの速報が。あの辺は監視カメラも少ないし、あの時間は人気もほとんどないから簡単に特定されるとは思ってない。でも、それにしてはサイレンが聞こえるまでが早かった気がする。
「奢らせた上にシャワーも先か」
『寒かったの。お酒は今度奢るから』
ジンは短くなったタバコを灰皿に押し付けた。
そうは言ったものの、ジンがカクテルを飲むイメージなんてない。どっちかっていうとウイスキーのロックとか、ショットグラスでってイメージ。だからこそ、カクテルを飲ませてみたい。
『じゃあ今度は私がX・Y・Z奢ってあげる』
「あ?」
『これで終わり、だけじゃないでしょ?』