第38章 X・Y・Z
『……最悪』
任務当日。念入りに準備を進めて、周辺の地理も再度頭に叩き込んで……それなのに天気予報は大ハズレ。例の男はこの天気ならきっと車で来る。
それはいいんだけどこの雨の中じゃ視界も悪いし、ウォッカとジンが多少の足止めはしてくれるとは言えど、爆弾を仕掛ける時間だって10分程度しかない。
『はあ……』
「おい、着いたぞ。降りろ」
『ウォッカ聞いた?この雨の中降りろだって』
「あ?てめぇがここで降ろせって言ったろ」
『絶対寒いじゃん、濡れるし』
「雨降ってんだから当たり前だろ。さっさとしろ」
『ちぇっ……』
いろいろなものが詰まったバッグを持って、顔が見えにくいようにフードを被り車を降りた。すると早々に走り去っていく。
『今日は絶対抱かせない……』
さすがに天気はジンのせいじゃないけど、にしても態度が冷たすぎ。絶対に流されない、と心に決めて雨が凌げそうな軒下に身を隠した。その数分後、車が止まって例の男が降りた。頭を抑えながら小走りでバーへ向かっていくのを確認して、ゆっくり車に近づいた。
『……これでOK』
シフトレバーがDに入った時に爆発するようにセットをして、また先程の軒下へ戻る。全部終わるのを確認して報告しないといけないから……ていうか、すごく寒い。
また数分後、その男が戻ってきた。エンジンがかかりそして、
ドオンッ
頬に爆風の熱を感じながらスマホを開き、ジンに電話をかける。
『もしもし、終わったよ』
「わかった……すぐにズラかれ……」
『え、ズラかれって……あ、ちょっと!』
それだけ言われて電話が切れた。ズラかれって……そんなこと言ったってジンの車がどこに止められてるか知らないし、見つけたところで絶対鍵は開いてない。
遠くにサイレンの音が聞こえる。ここにいるのはまずいな……でも、今の状況で行ける場所なんてひとつしかない。
先程の男と同じように頭を抑えながら小走りでバーへ向かった。1杯くらい奢ってもらったっていいよね?
バーの扉を開けると、まだカウンターにはジンとウォッカの姿が。その間の席が空いてたのでそこへ座った。
『こんばんは、マスター……彼と同じものを』
マスターが小さく頷いた。そして左側から聞こえる小さな舌打ち。
「なんで来た」
『仕事終わりに1杯……と思って。そのくらいいいでしょ』