第38章 X・Y・Z
『知ってる?X・Y・Zのカクテル言葉』
「……」
『永遠にあなたのもの……ってね』
そう言って座っているジンに近づいて、自分からキスをした。触れた唇が思いの外冷たかった。
「ジンも冷えてるじゃん、シャワー浴びてきたら?」
「……それは誘われてると思っていいんだな?」
『いいけど……?』
ジンはサッと立ち上がって、帽子とコートを脱いでバスルームに入っていった。
ソファーに投げ置かれたそれらをハンガーにかけるのはいつもの事。持ち上げただけで、タバコの匂いが広がる。
それがちょっと嫌で、以前、某消臭スプレーをかけたらすごく不機嫌になった。それ以来ジンの私物には余計なことはしない、と心に決めた。
『ん?何これ』
ジンのコートの胸ポケットの辺りに箱みたいな何か。なんだろうと思って取り出そうと……しかし、自分のスマホに着信が。
『もしもし?』
「あ、マティーニ?私」
『シェリー?こんな時間にどうしたの?』
日付けが変わるまではあと数十分だが、それでもこの時間に連絡なんて珍しい。
「ジンがまた薬を勝手に持ち出したわ」
『ジンが?薬ってこの間話してたヤツ?』
「そう。昨日ラボに来た時に持ってったんだわ。しかも1ケース」
『え、これかな……』
「そこにあるの?」
『ん、たぶん……』
胸ポケットからその箱を取り出して開けようとした。が、
「……何してる」
ジンの声が聞こえて慌てて元の場所に戻した。
『あ、いや……』
「ジンもいるのね……とりあえず使わないで返してって言っておいて」
そのままプツッと切られた電話。恐る恐る振り返ると上半身裸のジン。
『あ……早かったね……』
「何してた、電話の相手は誰だ」
『え、っと……シェリーが、薬使うなって……』
「それを決めるのはあの女じゃねえ」
手を掴まれて、そのままベッドに投げられた。
『で、でも、開発だって大変なんだし、そもそもまだ完成してないんだから……』
「実験体を増やしてんだ。感謝して欲しいくらいだがな」
『でも……』
「うるせえ、そろそろ黙れ」
口を塞がれて、着ていたバスローブがはだける。そして、ほんの数日前に付けられた首のキスマークに、また吸いつかれた。
『……他の人に見られると大変なんだけど』
「それなら隠せ」
『じゃあ隠れる場所にしてよ……』