第37章 面白いもの
「シェリー、兄貴に何を……!」
ウォッカはジンの様子を伺いながら、シェリーに掴みかかるんじゃないかって勢い。シェリーはすんっとすました顔。
『あー、えっと……急ぎの用事じゃないなら……』
「……もう済んだ。行くぞ」
ジンは普段より少し低いトーンで言いながらウォッカを連れて部屋を出ていった。張り詰めた空気が消えて、大きなため息が出る。
『本当に命知らず過ぎるわ……まあ、今回はジンが悪いけど……』
「それなら自業自得でしょ。亜夜姉……なんであんな男がいいのかわからないわ。考え直した方がいいんじゃない?」
『そう言われてもなぁ……好きだし……』
「あ、いいわ。惚気は間に合ってる」
『ちょっと冷たくない?』
「これでも心配してるの。亜夜姉なら引く手数多でしょ。組織の人間じゃなくたって……」
『うーん……』
恋愛感情の好き、はジン以外に覚えたことがない。一度、バーボンに向けようとはしたけど、結局変わることがなかったし。
もちろん人として好きな人はたくさんいる。ちゃんとした知り合いなんて組織の人間しかいないんだけど。幹部の人達はみんな優しい……数名の例外もいるけど。
シェリー……志保と明美に対しての好きはそれとも違う。
どちらにしても、好きな人達はずっと仲良くしたいし、そばにいて欲しいし、何か危険が及ぶなら守りたい。
「……ずいぶん考え込ませちゃったみたいね」
『ん?あ、ごめん』
「本気なら止めないわ。でも、酷いことされたり泣かされたりするようならちゃんと教えて。痺れ薬盛ってやるわ」
『それはさすがに……でも、ありがとう』
「そうだ、お姉ちゃんの住所……」
そういえば、突然のハプニングで忘れかけてたけど大事なこと。メモや写真には撮れないから、住所が書かれたメモを何度か唱えてしっかり覚えた。以前、いろいろとあったし組織の目を避けての引越しだろうから、私からバレないように気をつけないと。
『そろそろ行くね。楽しかったよ』
「私も。今度はお姉ちゃんも一緒にどこか行きたいわ」
『そうだね。じゃあ頑張って仕事片付けないと!また連絡するね』
「うん、またね」
シェリーのラボを出て、ちょっと浮かれた気分で部屋に戻った。
「……遅せえ」
『別にいいじゃない。それより、今度シェリーに謝ってね』
「チッ……」