第37章 面白いもの
『着替えあるならよかった』
「時々薬がかかることがあるから……そのまま着続けるわけにはいかないし」
『そっか。あ、布巾ある?テーブルと床拭くから』
「えっと、これ使って。ごめんなさい、零したの私なのに」
『いいよ気にしなくて……ってそこで着替えるの?』
「更衣室なんてないもの。それに今は亜夜姉しかいないんだからいいでしょ」
そうは言ってもずっと見続けることもできず、シェリーに背を向けた。着ていた白衣が置かれる音を背後に感じながらテーブルを拭く。そして床。案外飛び散ったんだなぁ……なんて思いながら机の脚の近くを拭いていると。
ガチャッとドアの開く音。ノックもしない馬鹿は誰だと思って顔を上げると……
『えっ?』
そこにいたのはジン。その後ろにウォッカの姿も。その視線は私ではなく、その後ろに……。
ハッとして振り返ると案の定、シェリーはまだ下着姿で。
『ジン!ノックくらい……いったぁ……』
勢いよく立ち上がろうとしたせいで机に頭をぶつけた。それより、私はどうするべきなんだろう……シェリーの盾になるべきなのか、ジンの目を覆うべきなのか……ていうか、なんで1番私が慌ててるんだろう。ひとまず、シェリーの姿を隠すことにした。
「チッ……」
『舌打ちしない!悪いのはジンでしょ!いつまでも見ない!』
「……こんな所で着替えるヤツがあるか」
『ここはシェリーの部屋!ノックくらいしなさい!』
「うるせえな……」
「もういいわ……マティーニ」
視線を向ければ着替え終わったシェリー。それを確認して、ジンを軽く睨む。
『ジン、シェリーに謝って』
「……俺は悪くねえ」
『子供みたいなこと言わない。マナーくらい守って』
「……」
『女の子なんだから、体を見られるのなんて嫌に決まってるでしょ』
「……そんなガキの体に興奮するヤツなんざいねえよ」
『なっ……ジン!!』
「……信じられないわ」
『シェリー?』
シェリーがジンの前まで歩いてく。何をする気なんだ、と思ったのも束の間。シェリーが右手を振りかぶったかと思えば、パシンっと音が響いた。
「……最低。出てって」
『ちょっ、あ、え?今……えっ?』
ジンの左頬が薄ら赤くなってるのを見て、シェリーがジンを引っぱたいたのを理解する。口を開けたまま固まる私と青ざめるウォッカ。