第37章 面白いもの
「そうなの。本当に腹が立つわ。おまけに未完成だからか、出来損ないの名探偵なんて呼ばれるし」
『あ、それも聞いたことある』
「もう少しこっちの苦労もわかって欲しいものだわ」
中身が半分くらい減ったカップを置いて、シェリーが立ち上がりパソコンの前に座った。それに合わせて私も立ち上がって横から画面を覗き込む。
「今から見せるもの、まだ他の人には言わないで欲しいんだけど」
『わかった』
そして、パソコンに表示された5つのカメラの映像。どれにもマウスが映っている。そのうち4つの映像のマウスは動くことなく転がっている。おそらく死んでいるんだろう。でも、1匹ちょこちょこと動き回っている。他のものと比べて少しばかり小さいか……?
「このマウス達はみんな同じ日に同じ親から産まれたもの。大きさもほぼ同じだったわ。使った薬も同じ」
『え、でもこれ生きてるしちょっと小さい……』
「そうなの」
シェリーと目が合った。浮かべられた表情は、好奇心が入り交じって見える。
「この生き残った1匹、幼児化しているの」
『それって……若返ったってこと?そんなことあるの?』
「私も驚いたわ。でも、実際そうなったんだもの。信じるしかないでしょう?」
『それじゃあ、この薬って若返りにも使えるの?』
「確率が低すぎるわ」
パソコンの画面が消えて真っ暗になった。
『確率?』
「マウスは20%。でも、今までこの薬で殺された人間は全員死亡が確認されてる。誰も生きてないのよ」
『死ぬ可能性の方が高いってことね』
「もしこの実験結果が知られたら、もっとたくさんの薬が使われるわ。だから今は黙ってて」
『わかった。大丈夫、誰にも話さないよ』
「それじゃ、この話はおしまい。まだ時間ある?」
『あるよ、気が済むまで話そう』
椅子に座り直して向き合った。話題は相変わらず尽きない。1つ話終わればまた次が……明美もいたらもっと楽しかったのに。
「そうだ。お姉ちゃん、また別の部屋借りたんだって」
『そうなの?』
「うん。亜夜姉にも教えておいてって言われたんだけど……」
シェリーはそう言って立ち上がった。が、椅子に足を引っ掛けてその衝撃で彼女の紅茶のカップが倒れた。そして残った中身がシェリーの服を濡らす。
『ちょっ……大丈夫?』
「冷たくなってたし……でも、着替える」